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商品情報 あらすじ 特徴 楽曲オープニング「冒険でしょでしょ?」 エンディング「世界が夢見るユメノナカ」 「最終未来を見せて!」 「恋のミクル伝説」 登場人物 公式HP 商品情報 通常版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2007年12月27日 価格 5,040円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 超プレミアムBOX 発売日 2007年12月27日 価格 9,450円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版同梱物 いとうのいぢ 描きおろし特製BOX 北高制服モチーフ特製ポーチ SOS団ロゴ入りソフトケース "長門有希のおしゃべりたいまー"縦置きスタンド 朝比奈ミクルのふきふきクリーナーストラップ 特製デザインヘッドホン 描き下ろしスティックポスターセット ビジュアルアーカイブ the best版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2008年12月4日 価格 2,940円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) あらすじ もう何度目になるだろうか、このデスクで目覚めるのは…。 時は北高祭前日。誰もがクラスや部の出し物の準備に追われる中、SOS団もあの迷作「朝比奈ミクルの冒険」の上映に向けて準備中だった。 超監督ハルヒの指示のもと、完成に向けて連日徹夜編集作業に勤しんでいるのは我らが主人公、キョン。 今日も映画を編集中のパソコンの前で目覚めてしまった彼。 いつの間にか北高祭前日になってしまった。かれこれ何日も編集作業を続けてきたのに一向に完成を観ない映画を尻目に、キョンは顔を洗いに部室をでる。 各々の出し物の追い込みでバタつく校内で出会うのは、占い師姿の長門や鶴屋さん、谷口などなど馴染みの顔ばかり。 しかし、彼はそれらひとつひとつにふとした既視感を抱くのだった…。 そして徐々に明らかになる学園の「異変」。例によって次々と起きる非日常的アクシデントの数々。 なあハルヒよ、これもお前が望んだことなのか…? はたしてキョンは無事に映画を完成させ、文化祭当日を迎えることが出来るのだろうか……!? 特徴 アニメ版の声優を起用し、フルボイスで話が展開される。 また、さまざまなルートがあり、進む方向によって話が変わり、エンディングも変わる。 楽曲 オープニング 「冒険でしょでしょ?」 作詞:畑亜貴/作曲:冨田暁子/編曲:藤田淳平 歌:平野綾 エンディング 「世界が夢見るユメノナカ」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「最終未来を見せて!」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「恋のミクル伝説」 作詞:山本寛/作曲・編曲:神前暁 歌:後藤邑子 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 朝比奈みくる 長門有希 古泉一樹 鶴屋さん キョンの妹 シャミセン 谷口 国木田 喜緑江美里 コンピュータ研究部部長 朝比奈さん(大) 謎の少女 公式HP 涼宮ハルヒの約束 公式サイト
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「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者がいてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体についてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されてしかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対してダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれてもいつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるならどこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕はなかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編)へ~~
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2から パスポートを受け取った日、ハルヒはいきなり俺からそれを横取りし、どこかの悪の党首へか、その写メを送っていた。 「親父の携帯へよ。旅行会社に教えとかないといけないんだって」 ハルヒは、俺にパスポートを返しながらそう言った。 「それにしても変な顔ね。もう少しマシなの、なかったの?」 返しながらも、ハルヒは妙に固まってるポスポート添付の俺の写真にケチをつける。 「いきなり連れてこられて、そこのコイン写真機で撮ったんだろ。マシとか、そういう問題か」 するとハルヒは「ちょっと待ってなさい」と言い捨て、そのコイン写真機の中へ飛び込むように消えて行った。 数分後、コイン写真機の横で、ハルヒと俺は写真が出てくるのを待っていた。 「ほら、どう?」 ハルヒが引っ掴み、俺の顔の前に突き出した写真には、100ワットの笑顔で笑ういつものハルヒがいた。 「こういうのはね、コツがあるのよ」 「それを撮る前に教えろよ」 「つまり……好きな奴が目の前にいるとイメージすんのよ。んもう、うっさいわね!」 「いや、まだ何も言っとらん」 「じゃあ、この話題、終了!」 「……かえって目つぶりそうにならないか?」 「ん、何?」 「いやいや.終了だ、終了」 「なに、何なの? 言いなさい!」 幸運にもハルヒの携帯から着信音がなり、追求は中断した。 「親父? 今のちゃんと撮れてなかった? あ、そう。キョン、あんたにだって」ハルヒから携帯を受け取る。 「お電話かわりました」 「代わられました、涼宮親父です。あのな、トランクだが、うちの連中の分は、まとめてレンタルしようと思ってるんだが、一口乗るか?」 「あ、ええ。俺も持ってないんで、お願いできるなら」 「じゃあ、出発の2日前に自宅に配達されるようにしとく。デザインの方は任せてくれ。誰ともかぶらないオリジナリティあふれるやつにしとくから」 俺の耳に着けた携帯に、向こう側から自分も耳をくっつけていたハルヒは、そこでいきなり自分の携帯を奪い、もとい取り返し、親父さんに相手に吼える。 「あんた、キティーちゃんの浮かせ彫りみたいなのにしたら、ただじゃおかないからね!」 「わかった、わかった。切るぞ」 「あ、もう。切れたわ」 「なんだ、その、浮かせ掘りって?」 「昔、親父にレンタルするトランクを頼んどいたら、なんとあたしののデザインが、ミッキーマウスとミニーマウスが、ソーラン節を踊り狂ってるようなトランクでね」それ、想像できるか? 俺にはできん。 「小学生ながら、顔から火が出たわよ」 「なんか急に不安になってきた」 「どうせ3泊4日なんだし、トランクなんていらないんじゃないの?」 「そうなのか。旅慣れないせいか、そういうのは、どうもよくわからん」 「南極行くってんなら、着るもの食べるもの、生活に必要な一切を持って行かなきゃならないだろうけど、今時、どこの国でも都市に出たらコンビニはあるしネカフェもあるし、手ぶらで行って必要なものを現地調達すればいいのよ。気候だって違うんだから」 「で、おまえはどうすんだ?」 たしか合宿のときとか確か軽装だったよな。 「トランク? もちろん持って行くわよ。あたしは万事において全力でいくのがモットーだから。旅行の荷造りだって例外じゃないわ!」 その気合いはどこに向けられてるんだろうね? 俺にとっては始めての海外旅行だが、万事あの親父さんが取り仕切り、そこに万一遺漏があったり、十に一悪ふざけがあったにしても、さらにその奥には、ハルヒのあのハイパー母さんがいる訳で、パスポートもとれた今、俺には何をやることもなく、心の準備すらもなんだかどうでもいいような気がして、ただ出発までの日を、いつのもの日常をのんべんたらりと過ごすだけなのであった。 それはハルヒも同じことのようで、部室でネットを見ているときに、巡回先が今回の行き先の何とか島だったり、そこでの何とかスポットであることを除けば、これまた、しごく心おだやかに暇を持て余しているのだった。 「いやいや。そうとばかりも言えませんが」 何だよ、古泉、また宇宙の危機か? 俺には時折パソコンの向こうから、くふふふ、とか、えへへへ、といった間抜けが声が聞こえてくる以外は、まったりとしてその上どっぷりな日常しか感じられんぞ。 「ええ、涼宮さんは極めて上機嫌です。このところ閉鎖空間の発生もありません」じゃあ、ノー・プロブレム。問題なしだ、良いことじゃないか。 「……今回、あなたという人間が、ご自分のことについても、極めて鈍感な方だということがわかりましたよ」 大きなお世話だ。顔が近い、それをさらに近づけるんじゃない、古泉。 「まさかと思いますが、『ぐひひひ』とか『えへへへ』とか『ハルヒの水着か……』などと、つぶやいているのに気付いておられないのですか?」え? 誰が、何をだって? 「いえ、もう結構です。失礼しました」 古泉は、失礼な言いがかりを付けるだけ付け、後ろから誰か気配でも感じたのか、少し振り向くと急に立ち上がった。それと同時に、もう一人が椅子を引いて立ち上がり、つかつかとこっちに近づいてくる。 「こ、こ、こ、この、エロキョン! 顔を洗って出直しなさい!!」というハルヒの怒声にタイミングを合わせ、長門が本を閉じる。本日のSOS団、終了。 SOS団は解散となったが、俺は居残りを命じられ、着替え終えた朝比奈さんが小さくぺこりと頭を下げ去って行くのを見送りながら、部室の前の廊下に立っていた。古泉と長門は先に帰った。数十秒後、ドアが開いて、頭から湯気をあげ、まだゆでダコ気分が顔から抜けないハルヒが現われた。 「やっぱり、あんたに任せっきりにすると、ろくなことがないわね」 そういって、ハルヒは右手の人差し指を、俺の眉間に撃ち抜かんばかりに、びしっと俺の顔に突きつけた。 「今日はあんたの家で、あんたの分の荷造りをするわ。あたしが旅行の心構えってものを、一から教えたげるから覚悟しなさい!」 「いや、しかし、トランクがまだ来ないだろ」 「そんなものはどうとでもなるのよ!」 そう言い終わらないうちに、ハルヒは携帯でどこかに電話しはじめた。怒ったり泣いたり笑顔になったり、電話だけで十二面相をやらかした後、息を切らせながらも、いつもの100ワット笑顔となって電話は終了。 「はあはあ。どんなもんよ! これで、トランクは今日の6時にあんたの家に配達されるわ」 「そうか」 心の中で見えない拍手。パチパチパチ。 「時間が少しあるから、帰りに必要なものの買い出しにいくわ。それからあんたの家を直撃よ!」 「なあ、ハルヒ。言ってもいいか?」 「意見だけなら、いつでも聞いてあげるわよ」 「泥水も飲める携帯ストロー型浄水器って、どこで使うんだ? っていうか、どういうとこへ行くつもりなんだ?」 「万が一ってことがあるでしょ。海外旅行で一番油断大敵なのが水なのよ、覚えておきなさい!」 「というか、さっきから俺たち防災グッズ・コーナーにずっといるんだが」 「うっさいわね。そのストローは、泥水だけじゃなくてお風呂の残り湯だって飲めるのよ! ……って、なに想像してんのよ、このエロエロキョン!!」 「しとらん! 想像してんのは、おまえだ、ハルヒ!」 「覗くのももちろん、飲むのも禁止だからね」 「飲まん! そこまでマニアックじゃない!」 「マニアックだっていう自覚はあったんだ……」 「……な、ない!」 「次はこれよ! 耳掛け式強力LEDライト!明るさは2段階調整。イヤークリップの付け替えで左右どちらの耳でも装着できるわ」 「今度行くところには洞窟とかあるのか?」 「ないわ」 「じゃあ、いつどこで使うんだ?」 「夜に決まってるでしょ。そんなことだから『昼行灯』とか言われるのよ」 「誰も言ってねえよ、そんな古風なあだ名」 「とにかくヘッドランプなんて大げさでしょ。これを、ちょいと耳にひっかけておけば、夜間作業もバッチリよ」 「俺は夜中に穴なんか掘りたくないぞ」 「まあ、あたしたちが使うのは、せいぜい夜とか飛行機内での読書灯かしら」 「長門に土産に買っていってやるか」 「土産じゃないでしょ!」 「次はこれよ!折りたたみ式でコンパクトになる携帯用蚊帳その名もスパイダー」 「おまえ絶対、テレビ・ショッピングのヘビー・ユーザーだろ?」 「あたりまえでしょ。『通販生活』だって定期購読してるわよ」 「しかし携帯用の蚊帳なんて必要なのか?」 「いちいちうるさいわね。ジャングルでビバークする時の必需品でしょ。そんなことじゃゲリラ戦を勝ち抜けないわよ」 「そんなトーナメント戦、出たくねえよ」 「うるさいわね、蚊帳の外に置くわよ」 「どこの大喜利だ!」 「お、ハンモックがあるじゃないか」 「あんた、そんなもの欲しいの?」 「ヤシの木陰でハンモックで昼寝するなんて、子供時代、誰だってあこがれる夢だろ?」 「昼寝って、あんた南の島に何しに行くつもり?」 「何って、リゾートだろ?」 「あんたの場合、『湯治』と書いて『リゾート』とカナを振るんでしょ?」 「うまい」 「うまくない! あんたなんか、日本にいたって学校にいたって、居眠りしてるんだから、怠け者の節句働きよ! もっとアクティブなことやりなさい」 「たしかに休日の方が、ぶらぶら市街探索とか、おまえと映画行ったり飯食ったり店ひやかしたり、意外と忙しくしてるな」 「ちょっと! 突っ込みどころ満載よ!『ぶらぶら市街探索』って何? やる気がべそかいて逃げていくでしょうが! 『おまえと映画うんぬん』は、きっぱり一言『デート』でいいのよ!」 「い、いいのか?」 「こ、この際だし、許す。で、でもねえ!」 「まだ、なにか?」 「一緒に行くのに、だいたいハンモックなんて、一人でしか寝られないじゃないの!」 「いや、二人用もあるみたいだぞ」 「キョン、それ、いっときなさい」 「耐過重1000キログラム」 「そんなに重くないわよ!」 「わかってるって」 「次はこれよ! 体温保持率90%で氷点に近い外気温の下でも体温が下がるのを防ぐ、手のひらサイズにたためるヒートシートビビーサック!」 「んー、南の島に行くんじゃなかったかしら、私たち?」 「ハルヒの母さん!」「母さん!」 「サバイバル・グッズ・コーナーで、大騒ぎしながら品物選んでる制服カップルがいるって、近所の奥さんが教えてくれたの」 「「……」」 「それ、全部持ってくの? トランクじゃなくて、トレーラーが必要じゃないかしら?」 「戻してくる」「きます」 ハルヒの母さんと別れ、正気に返った(?)ハルヒと俺は、その日の残りの予定、つまり「トランクに旅行の荷物を詰め方を実践で学び、同時に海外旅行の心構えを習得する」を消化するために、俺の家へ向かった。 玄関を入ると、そこには見知らぬトランク・ケースが鎮座している。恐る恐る近づいて開けてみようとすると、そこはお約束、 「あー、ハルにゃん、キョン君、おかえりなさーい」 「ただいま」 「おまじゃまするわ、妹ちゃん」 「はーい。ねえ、キョン君、そのおっきなカバンにまた入ってもいい?」 「いけません」 俺は妹に言い聞かせるように説明した。 「いいか、飛行機に乗るには、こういう大きなカバンは、チェックインカウンターというところで預けないといけないんだ。飛行機はでかいから何百人という人が乗り込む。つまり何百人分の大荷物を急いで飛行機に放り込まないといけないから、空港では預けられた荷物はとても乱暴に扱われるのが普通だ。このトランクのこことここ、それからこのあたりを見てみろ。傷だらけだろ。空港では何しろ時間がないから、トランクなんか放り投げたりする。だから、トランクの中に少しでも隙間があると、中は無茶苦茶になってしまうんだ。そうだよな、ハルヒ?」 「あ、うん。そうよ。だから今日も、キョンの荷物が無茶苦茶にならないように、あたしが詰め方を教えに来たの」 「そうなんだー。ハルにゃん、今日、ご飯食べてく?」 「うーん、ごちそうになろうかな」 「わーい。お母さんに言ってくる。じゃあ、ごゆっくりー」 「ねえ、さっきのトランクの説明だけど」 「ああ、口からでまかせだ。おかしかったか?」 「ううん。おかしくない。あんたって、時々わからないわね」 「……実はネットで調べた。その、なんだ、俺なりのモチベーションの高め方というか……」 「うん……時々わからないわ」ハルヒはそれっきり口を閉じて、それから目を閉じた。顔と顔の距離が、どちらかということなしに近づいていく。そして…… ドアはノックもなしにいきなり開けられた。お約束。 「ハルにゃーん! お母さんが、台所、いっしょしたいって!」 「うん、手伝う。すぐに行くって」 「はーい」 兄にノックの件を小言すらさせないのか、妹よ。あー、どうして顔面がこんなに熱いんだろうねえ。 「じ、じゃあ、あたし、ちょっと、行ってくる」 「あ、ああ。すまんな、いつも」 「い、いいって」 ハルヒがパタパタという音を立てて階段を下りていく。あの「ハルヒちゃんに何をしたの!?」の後だからなあ。まあ、そこはハルヒ、如才なくやるだろうが。あー、それにしても、どうしてこう顔が熱いんだろうねえ。 夕食は、いつもの俺ん家の夕食プラス1(ハルヒ)といった、すでに見慣れた通りのものだった。あとでハルヒに聞いたら、夕食を用意している時も、うちの母親もいつもと変わらなかったという。 というわけで、本日のメイン・イベント、涼宮ハルヒ博士による「トランクの詰め方」だ。 「まず、開けてみて」 「こうか(ガバっ)」 「中に鍵がついたタグがあるでしょ。それに暗証番号のセットの仕方が書いてあるわ。まあ3〜4ケタだし気休め程度ではあるけれど、番号を揃えてから鍵を開けないと開かないの」 「これだと3ケタだな。◎…◎…◎と」 「861」 「なんで?」 「8ハ(チ)、6(る)、1ひ(とつ)」 「6が『る』ってのは?」 「14106でアイシテルだろ」 「ポケベル語!? あんた、いつの時代の人よ!」 「じゃあ、おまえは?」 「940」 「訳を聞こうじゃないか」 「9キ(ュウ)、4ヨ、0(テ)ン」 「……自分で言うのも何だが、名前を暗証番号に使うのは、やめた方がいい気がするぞ」 「うーん、自分の名前ならまずいだろうけど、ほら、お互いの名前だから」 「まあ、かまわんか」 「うん、気休めだし」 「さあ、いよいよ荷物を詰めるわよ」 「ああ。よろしく頼む」 「まず原則は、あんたも言ってた通り、トランクは一杯にすること」 「ああ」 「但し! 帰りはお土産なんか買って荷物が増えるけれど、行きも帰りもトランクは一杯にする。帰りの増加分は、機内持ち込みのバックを空に近い状態にしておいて、そっちを使うのよ」 「なるほど」 「まずは開いた状態のトランクの広い底面に、洋服なんかの大きくて柔らかい物を、同じく底一面に広げる様に敷き詰めながら入れる。服は決してたたんだり、丸めたりしないこと。その方が余計にかさばるからよ」 「そうなのか」 「帰りは同じように、トランクの広い底面にお土産の箱ものや袋ものも平らに敷き詰めるの。心配なら、ますタオルを敷いて、その上にお見上げ、その上に上着と、サンドイッチ状態にすればいいわ。上着や服のそでがこの時点でトランクからはみ出ても問題なし!」 「おい、ほんとに問題ないのか?」 「ここまで底面に敷き詰めたあとで、箱モノや重い物を積んでいくの。これはパズルの容量でいいわ。車輪の着いた方が、持ち運ぶときは下になるから、重いものはそっちに配置ね」 「なるほどな」 「ここまでで大物、中型のものは全部入ったわね。あとはコスメとか、まああんたに用はないだろうけどや文房具なんを隙間に詰め込んでいくわ」 「まあ、土産を持ち帰るときは、そうするよ」 「えーと、あんたの下着はこの引き出しね」 「おいおい、勝手に開けるな」 「かって知ったるなんとやらよ。下着やタオル類はくるくると巻けば収納効率が良くて、隙間をつめる「詰め物」にもなるから一挙両得よ。トランクを開けたときも、どこにあるか一目で分かりやすいしね」 「わかりやすいはいいが……」 「うーん『詰め物』がちょっと足りないわね。これだと内でぐらぐら動くから、もっと下着とかTシャツとかタオルを出して。こうして増量して、きっちり動かないように詰めていくのよ」 「……」 「これで全部入ったわね。さっきはみ出してた服の袖とか裾は、この段階で全体をくるむように真中へ折り返す。その上で、トランクの内についてるバンドをかけると、内で荷物がバラバラになるのを極力さけられるというわけ。……さあ、何か質問はない?」 「ハルヒ、おまえの説明は大変よく分かったし、俺の旅行用トランクは見事に完成したが、……お約束ですまんが、今日俺が着替えるはずのシャツも下着もみんなこの中だ」 その3へつづく
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「はぁ…はあ…、くっ…!」 俺は走っていた 息を切らしていた …… ああ…やっぱみんな揃ってやがる… …… …疲れた 「キョン…遅い!!罰金ッ!!」 高々に罰金宣告を放つ団長様。 「…俺がいつも最下位っていうロジックは変わらないわけだな…、」 「遅れてくるあんたが悪いんでしょ!?」 「まあまあ涼宮さん。彼も疲れてるようですし、このへんにしておきましょう。」 「そ、そうですよぉ。キョン君息まで切らしてるみたいですし…。」 古泉と朝比奈さんが仲介に入ってくれる。 「ふん、頑張ってきたことを認めたって、あんたがビリなことには変わりないんだからね!」 「…そんなことわかってるぜ。別に事実を否定しようとは思わん。だから、早く中へと入らして休ませろ…。」 そんなこんなで、俺たちは喫茶店へと入る。 椅子へと座る。 …… ふう… やっと一息つけたぜ。 「やはり、昨日の疲れはまだとれませんか?」 口を開く古泉。ハルヒはというと、長門や朝比奈さんと一緒にメニューを眺めている。 「当たり前だろう…そういうお前こそどうなんだ?内心はかなりきつかったりするんじゃないのか?」 「…確かに、きつくないと言ってしまえばウソになります。ですが、その疲労もあなたと比べれば 大したことありませんよ。あそこに残り、最後まで涼宮さんと一緒に戦い続けた…あなたと比べればね。」 「さ、あたしたちのは決まったわよ!男性陣もとっとと決めちゃいなさい!」 そう言ってメニュー表を渡すハルヒ。 「何に決めたんだ?あんま高価なもんは勘弁してくれよ、払うのは俺なんだからな。」 罰金とは即ち、全員分の食事をおごること…SOS団内ではそういうことになっている。 もっとも、それを毎回支払うのは俺なんだが…。 「あのね、あたしだってそこまで鬼じゃないわ。せめてもの慈悲として、一応1000円は 超えないようにしているもの。あたしが頼むのはね、そこに載ってる…これよこれ!」 「…このチョコレートパフェ、値段が800円なんだが…」 「つべこべ言わない!そんくらい払いなさい!そもそも、遅れてくるあんたが悪いんだから!」 何が、あたしは鬼じゃない…だよ…。それどころか、棍棒を装備した鬼といえる。 「…キョン君、財布が苦しいようでしたら、いつでも相談してきてください。 機関でそのへんはいくらでも工面できますから…。」 ハルヒに聞こえないよう小さく耳打ちする古泉…って、マジか!?それは非常に助かる… 「いつもいつも払ってもらってゴメンねキョン君…なるべく私安いのを頼むから…!」 そう言って朝比奈さんが指したのは…この店で最も安い120円のオレンジジュースであった。 「私も…朝比奈みくるに同じ。」 「奇遇ですね。僕もそれを頼もうと思ってたところなんですよ。」 長門、古泉が言う。 …つくづく、俺は良き仲間に恵まれたと思う。なんだかんだで3人とも俺に気を使ってくれている。 まったく、どこぞの天上天下女に… 一回みんなの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。 「え、えぇ!?みんなオレンジジュースにするわけ!?」 動揺するハルヒ。 「みたいだな。ちなみに、俺自身もそれを頼もうと思ってる。」 「あんたの注文なんか聞いてないわ!!」 そうですか… 「だってみんなオレンジジュースな中、あたしだけデザートっていうのもバカらしいじゃない!? しかも結構でかいから食べ終わるのに時間かかるし…!!あぁ…もう!!じゃあ、 あたしもオレンジジュースでいいわよ!!良かったわねキョン?みんな安い物選んでくれてさ!」 これは驚いた。なんと、俺たちは意図的ではないにしろ、あの涼宮ハルヒ自らの決断を… 覆してしまった!!歴史的瞬間とはこのことか!こんなの今までなかったことだぜ…? …なるほどなぁ、ようやくハルヒも人の痛みがわかる道徳人間へ進化したってわけだ。 「何ボケっとしてんの!?そうと決まれば、早くみんなの分注文しなさい!」 前言撤回。俺の勘違いだったらしい。 …… 「じゃ、いつものクジ引いてもらうわよ!」 SOS団恒例のクジ引きである。不思議探索にて二手に分かれる際、 その人員采配として、この手法が導入されている。 …… 皆、それぞれハルヒからクジを引く。 「おや、僕のには印はないようです。」 「私にもないです。」 「ん?俺もだな。」 ということは… 「え…!?じゃあ、あたしと有希!?」 「そういうこと。印があったのは私とあなただけ。」 …珍しいこともあるもんだ。まさか、組み合わせが俺・古泉・朝比奈さんとハルヒ・長門に分かれるとは。 「有希と二人っきりなんて、なかなか無い機会よね~今日はよろしくね有希!」 「こちらこそ。」 ジュースを飲み干し、会計を済ませた俺たち。そういうわけで俺たち5人は…不思議探索とやらに励むのであった。 「いつも通り、5時に駅前集合ね!」 そう言って、長門とともに商店街のほうへと歩いていくハルヒ。 「なるほど、涼宮さんたちはあちらに向かわれたようですね。我々はどうしましょうか?」 「そうだな、とりあえず俺は…落ち着いて話ができる場所に行きたいな。 朝比奈さんはどこか行きたいところはありますか?」 「いえ…特にないですよ。お二人の好きなところで結構です♪」 「そうですね…では、図書館にでも行きませんか?あそこでしたら静かに話をするには悪くない上、 暖房も聞いていますし…ちょうどいいのではないかと。さすがに、また喫茶店やファミレス等に入るのも… あなたたちには分が悪いでしょう?」 「いや、俺は別に…それでも構わんが。」 「でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、 特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。 話してばかりで何も頼まないようでしたら、お店の人に迷惑がかかるかもしれませんし…。」 …確かにその通りだ。朝比奈さんの指摘もなかなか鋭い。 「決まりですね。では、図書館へ向かうとしましょう。」 俺たちは歩き出した。 「それにしたってなぁ…ハルヒのヤツも、今日くらいは集合かけんでよかったのにな… いくら今日が日曜で不思議探索の日だからって…。ついさっき、12時間くらい前か? 俺たち…この世界の危機に立ち会ってたんだぜ!?」 「仕方ないですよ。涼宮さんは…神に纏わる一切のことを忘れてしまったのですから。 昨夜の一連の記憶がないんです…二日前から今日にかけての日々は涼宮さんの中で 【いつも通りの日常】として補完されているはず、つまり【無かった】ことにされているんです。 であれば、日曜恒例の不思議探索を、彼女が見逃すはずはありません。」 「…まあ、それもそうだよな…あいつ、覚えてないんだよな…。」 …… 「それにしたって、今朝お前に…家まで車で送ってもらったことに関しては、本当に感謝してるぜ。 脱力しきって動く気すらなかったからな…とても家まで自力じゃ帰れなかった。 それと…朝比奈さんもいろいろとありがとうございました。」 「感謝なんてとんでもない。当然のことをしたまでです。」 「そうですよ…私たちなんか、キョン君と涼宮さんが闘ってる間、何もできなかったんですから… むしろ、今か今かと二人を助ける時を待ってたくらいなんですから!」 「古泉…。朝比奈さん…。」 …古泉・朝比奈さん、そして長門の三人にしてみれば、これほど歯痒い思いもなかったかもしれない。 できることなら、神を消し去るそのときまで…俺やハルヒと一緒に闘い続けたかったはずだ。 「…それにしても、三人ともよく俺とハルヒが倒れてる場所がわかったな。」 「前例がありましたのでね、推測は容易かったです。」 「前例?」 「以前、あなたが涼宮さんと二人で閉鎖空間を彷徨われたことがありましたよね。 あそこから帰ってきたとき…気付けば、あなたはどこにいましたか?」 「どこにって…自分の部屋のベッドだな。お前にも前にそう話したはずだぜ。」 「そうですね。で、そのあなたの部屋とは…即ち、涼宮さんによって 閉鎖空間に呼ばれた際、あなたが現実世界にて最後にいた場所というわけです。」 「まあ…そういうことになるな。ベッドに入りこんで眠った直後、俺は閉鎖空間にいたわけだからな。」 「その理屈を今回の事例にも当てはめた…ただそれだけのことです。」 「…なんとなくわかったぜ。」 「今回涼宮さんが閉鎖空間を形成するに至った契機となったのは…長門さんが隣家を爆破した、 あの瞬間です。とは言っても、あくまでそれはキッカケにすぎません。決定打となったのは… 朝比奈さんが涼宮さんをかばい、敵からの攻撃を被弾した…あのときでしょうね。」 「わ…私ですか…?」 …血まみれになった朝比奈さんを思い出す。 …… 確かに、精神的ストレスとしては十分なものだったかもしれない。 「その時点での涼宮さん、及びあなたの立ち位置はどこでしたか? 涼宮さんの家の前でしたよね。それさえわかれば、後は何も言うことはないでしょう。」 「俺たちが現れる場所も、つまりはハルヒの家の前だと。」 「そういうことです。」 「…なるほど、簡単な理屈だな。それにしても朝比奈さん、昨日は無事帰れましたか?」 「それはもちろん!森さんがちゃんと私たちを送ってくれましたから!それにしても… 彼女の見事なハンドル捌きにはあこがれちゃいます!私もあんなカッコイイ女性になりたいです…。」 …新川さんの運転もやけに上手かったな。その証拠に、 ハルヒ宅から俺の家に着くまでの時間も…随分短かった気がする。…機関はツワモノ揃いだな。 …… ------------------------------------------------------------------------------ 闇だった 意識を失った俺を待っていたのは …闇だった …… 俺はどうなるんだろうか?このまま永遠に目を覚まさないのだろうか? …そんなことがあってたまるか…!俺は…生きてハルヒに会わなきゃいけないんだ…! …… 誰か…助けてくれ…っ! …… …? 何か声がする… 誰かが俺を呼んでいる …… 古泉…? 長門…? 朝比奈さん…? ……みんな…? 「ッ!!」 …… 「こ…ここは…?」 「!?目を覚ましたんですね!!」 「キョン君…!!無事で…何よりです…!」 「…本当に良かった…。」 …… 仲間たちの姿が…そこにはあった。 「俺は一体…」 「本当によくやってくれましたよあなたは…涼宮さんと一緒にね。」 「涼宮…。」 …… 「そうだ…ハルヒは!?」 すぐに立ち上がり、辺りを見渡す。なんと、横にハルヒが倒れているではないか。 …… ハルヒ…また会えたな…っ! 「おいハルヒ…大丈夫か!?ハル」 言いかけて口を閉じる。 …… 『明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、 ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。』 そうだ…。このハルヒは、昨日今日のこのことを覚えていない。神に纏わる全ての記憶を。 『ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う… 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。』 わかってるさ。そのほうが…ハルヒは幸せに生きられるもんな。 …とはいえ、それはそれで悲しいもんだ。もう、【あのハルヒ】には会えない…ってのは。 「涼宮さん、まだ起きないんですよね…。どうしましょう?」 「キョン君も起きたところですしね。呼びかけてみましょうか?」 「!待ってくれ古泉…!ハルヒは…このままにしておいてやれないだろうか?」 俺は…事ある事情を話した。 …… 「なるほど…言うなれば、涼宮さんは三日前の状態に戻った…というわけですね?」 「…ああ、そうだ。だから」 「言いたいことはわかりました。涼宮さんはこのままにしておきましょう… それもそのはず、前後の記憶がないのであれば 今ここで起こすわけにはいきませんからね。 『どうしてあたしはこんな外で寝ていたの?』、このような質問をされてしまっては 不都合なことこの上ないでしょうから。」 …さすが古泉。お前の理解力には脱帽だぜ。 「となれば…。朝比奈さん、長門さん 頼みがあります。」 「な、何でしょう!?」 「これから二人で涼宮さんを背負って…彼女の部屋、できれば寝床まで 連れて行ってもらえないでしょうか?少々きついとは思いますが…。」 「あ、そっか…目を覚ましたときにベッドの上にでもいれば、 涼宮さん自然な状態で起きられますもんね!私…頑張ります!!」 「了解した。涼宮ハルヒはきっと部屋まで連れて行く。」 「お、おい古泉!?ハルヒくらい俺一人で背負って行ってやるぞ!? 何も長門と朝比奈さんに頼まなくても…しかも、長門は未だ能力が使えないだけあって 体は生身の人間なんだ。いくら二人がかりとはいえ…それなりの負担にはなっちまうぞ!」 「だ、大丈夫ですよキョン君!すぐ着く距離ですから!」 …? …… そういえば 俺は…ここがどこかをよく把握してなかった。起きたばかりで、いささか余裕がなかったせいか? 隣には見慣れた家がある。いや、見慣れたとかそういう次元の問題ではない…か。 そりゃそうだ。なぜなら、それはさっきまで俺たちが一緒にいた家なんだからな。 …つまり、俺たち二人はハルヒの家の前で倒れていた…というわけだ。 「いや…、それでもだな…。」 「今は涼宮ハルヒのことは私たちに任せて、あなたは休息をとるべき。あなたは今、心身ともに衰弱している。」 「何言ってやがる長門?俺はこの通り…」 …どうしたというんだ?足に力が入らない…?気のせいか、体もふらふらする。 「キョン君…私からもお願いします、どうか今は休んでください! 自分では気付いてないのかもしれないけど…すっごく疲れきった顔してるんですから!」 何…!?今の俺の顔はそんなに酷いというのか。 「彼女たちもそう言ってくれてるんです。ここは素直に従ってくれませんか?」 「あ、ああ…わかった。じゃあ、ハルヒをよろしく頼みます…朝比奈さん、長門。」 「はいっ!任せてください!」 「では朝比奈さん、長門さん…涼宮さんを運び終えたら、しばらくの間、彼女の家で 待機してていただけませんか?こんな夜遅くに女性が一人外を出歩くのは…危険ですからね。 長門さんも今は普通の人間なわけですし。というわけで、これから森さんに電話を入れます。 彼女の車がここに来たら、それに乗り…家まで送っていってもらってくださいね。」 「古泉君…ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えます!」 「それと、すでに新川さんには電話を入れてあります。彼にはキョン君を送っていってもらいましょう。」 「古泉…すまんな。」 「いえいえ、こんなときのために機関の面々はいるようなものですから。」 「じゃあ、長門さんはこっちをお願いします!」 「了解した。」 ハルヒの肩を担ぎ、彼女の家へと入ってゆく二人。 「おや、もう来たみたいですね。」 ふと、道の横に黒塗りの車が停まっているのが見える。 「…いつ呼んだんだ?」 「3分前くらいでしょうか。あなたが目を覚ます直前くらいですね。」 …相変わらず仕事が速い新川さんである。 「さて、森さんにも電話を入れました…じきに彼女もココに来るでしょう。では、車に乗るとしましょうか。」 新川さんの車に同乗する俺と古泉。 「今日は本当にお疲れ様でした。帰ってゆっくりとお休みください。」 「…どうもです。新川さんも、夜遅くお勤めご苦労様です。」 「ははは、あなたの偉業と比べれば、私の働きなど足元にも及びませんよ。」 フロント席から俺に話しかける新川さん。 …… 「古泉…大丈夫か?そういうお前も随分疲れてるように見えるが…。」 「おや、そう見えますか?だとしても、弱音を吐くわけにはいきませんね。 これから僕は一連の事後処理に追われるわけですから。」 「これからって…まさか今からか??」 「ええ、そうです。」 「……」 時計を見る。今は午前の2時である…。 「新川さんの車で本部に帰ったら、ただちに仕事のスタートです。神は一体どうなったのか、 涼宮さんの能力の有無は…、調べるべきことは山ほどありますよ。」 …確かに、それは気になる。何よりも、神がどうなったかということが。 「…僕個人の勝手な推測で言わせてもらうと、神は消滅したのではないか?そう考えてます。現に今、 この世界に何も異変が起こっていない…それがその証拠かと。仮に時間を置いて世界を滅ぼすつもりで あったとしたら、地震や寒冷化などといった何らかの前兆が観測されてしかるべきはずですからね。」 「…そう信じたいものだな。」 「場所は、ここでよろしいですかな?」 気付けば俺の家の前まで来ていた。 「新川さん…ありがとうございました。そして古泉…大変とは思うが、どうかほどほどにな。」 「はい、心得ておきます。では、お休みなさい。」 「おう、またな。」 …さて、家に入るとするかな。…合いカギもってて助かった。 …… 部屋へと戻った俺は…ベッドに倒れ込んだ。…もはや何も考える気がしない。 気付くと俺は寝ていた。 …? 携帯が鳴っている。はて、目覚ましをセットした覚えはないのだが…。 …ああ、なるほど。電話か。窓からは日が射している…起きるには十分な時間帯、というわけか。 とはいえ、昨日あんなことがあったばかりだ…正直言うと、まだ寝ときたい。 …電話? …… まさか…ハルヒに何か!? 「もしもし、俺だ!」 「こぉ…んの…!!バカキョンッ!!今どこで何やってんのよッ!!?」 「おわ!?」 …驚くのも無理ないだろう…?まさかの本人ですか。 「は、ハルヒ…?何の用だ??」 「はぁ!?まさか忘れたとは言わせないわよ!?今日は不思議探索の日でしょうが!!」 「…今何と言った?不思議探索だと!?なぜ今日するんだ??」 「あんたがそこまでバカだったとはね…今日は日曜でしょう!?」 …確かに今日は日曜日だ。なるほど、いつもこの曜日、 俺たちSOS団は町へと出かけ、不思議探索なるものをしている。…だが 「昨日あんなことがあったばかりだろう?それでも今日するのか??」 「あんなことって何よ??いい加減夢の世界から覚めたらどう!?」 …しまった。そういや、ハルヒはこの三日間のことは…覚えてないんだっけか?? 「とにかく!!今すぐ駅前に来ること!!いいわね!?」 「…ちょっと待ってくれ。今すぐだと!?いくらなんでも急すぎやしないか??」 「何言ってんのよ!?今日の3時に駅前に集合ってメールしたじゃない!!」 「そ、そうだったのか??」 「まさかあんた、今起きたとかいうんじゃないでしょうね…?失笑通り越して笑えないわよ…。」 「わかったわかった!!今すぐ行くから!!じゃあな!!」 電話を切る俺。 …マジだ。メールが来てやがる。って、今3時かよ!?こんなに寝てたのか俺!? …… 幸いだったのは、俺が着ているこの服が外出着だったってことか。 もちろん、いつもなら寝間着なんだがな…昨日が昨日なだけにそのまま寝ちまった。 とりあえず、これなら財布・カバン・自転車のカギを身につけ、上着を羽織りゃすぐにでも直行できる。 身支度を終え、部屋を飛び出す俺 「あ、キョン君!やっと起きたんだね!」 廊下にて、妹に見つかる。 「私がどれだけ叫んでも、キョン君ぐっすりだったんだよ? でも今日は休日だから!さすがにドシンドシンするのは勘弁してあげたの!」 ドシンドシンとは…寝ている俺めがけ、トランポリンのごとくヒップドロップをかます 妹特有非人道的残虐アクションのことである。もっとも、妹にその気はないらしいが… って、俺は妹の叫び声でも起きなかったのか。どんだけ熟睡してたんだ? 「ちょっと疲れててな…起きるのがすっかり遅くなっちまった。とりあえず、俺は今から出かけてくるぞ。」 「ええー?今からお出かけ?あ、わかった!SOS団の人たちと何かするんだね?」 「…お見通しってわけか。ああ、そうだぜ。」 「行ってらっしゃ~い。あ、でもキョン君今日まだ何も食べてないじゃない?大丈夫~?」 しまった。そういや今日…俺はまだ何も食べていない。あれ?デジャヴが? …あー、昨日もそうだったか。そのせいで俺たちは…あの後マックへと行ったわけだ。 だが、今回はそうもいくまい。なぜなら、不思議探索をやるこの日に限って…しかも昼3時までに 昼食をとっていないなどというのは、ハルヒ的に考えられないからだ…! まあ、別にいいか。食べてる時間などないし…。それに、昼飯なら探索時にどこかで適当なもん買って 食えばいいだけだろう…。外に出た俺は自転車に跨ると、すぐさま駅へと向かった。…全速力でな。 …… 駅前の駐輪場に自転車を置いた俺は、すぐさまハルヒたちのもとへと走るのであった。 ------------------------------------------------------------------------------ …ちょっと回想してみたが。ホント、昨日今日と忙しい日々だった…。 …… おお、ちょうどいいところに店が。 「ちょっとコンビニ寄ってもいいか?」 「いいですよ。何か買うんですか?」 「ちょっと飯を…な。今日まだ何も食べてねえんだよ。」 「え、そうだったの!?それなら私、あんなこと言わなかったのに…。」 あんなこと…?ああ、あれか。 『でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、 特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。』 「いえいえ、いいんですよ朝比奈さん。古泉や朝比奈さんが何も頼まない横で俺一人だけ 何か食べるというのも…なんとも心苦しいですから。何より、二人が手持ち無沙汰でしょうしね。」 「別に私…そんなこと気にしませんよ?」 「ありがとうございます。でも、俺は飲食店に入ってまで大それた食事をとるつもりはないんですよ。 だから、軽い食事でOKなんです。」 「な、ならいいんですけど…。」 「では、我々はキョン君が食事をとり終わるまで暇を潰しておくとしましょう。 朝比奈さんは…何かコンビニで買うものはあったりしますか?」 「いえ…特にないですね。」 「なら、雑誌でも見ていきませんか?女性誌やファッション誌、漫画など… 未来から来た朝比奈さんには、この時代の雑誌はなかなか興味深いものと思われますよ。」 「!それもそうですね!面白そうです…!」 「というわけで…私たちは立ち読みでもしときますので、あなたはどうかごゆるりと。」 「すまんな古泉。」 とはいえ…あまりにマイペースすぎても2人に申し訳ないので、一応それなりのスピードで食させてもらうとする。 …… おにぎりと肉まんを買い、外に出た俺。 さて、食べるか…。 「ん?まさかこんなとこであんたと会うとは。」 「こんにちは。あ、それ肉まんですか?私はアンまんのほうが好きですね!」 …… いかん、うっかり手にしていたおにぎり&肉まんを落としそうになった。 「…どうしてお前らがここにいる…!?」 藤原と橘が、そこにいた。 「どうしてって…単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。」 「私も同じく!」 『単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。』 …こう言われては、俺もどうにも言い返せないではないか… なぜなら、コンビニに飯を買いに来ることはごく自然なことだからだ。当たり前だが。 「そうかよ…ならいいんだがな。それにしたって、俺は忘れたわけじゃねえぞ! よくも…朝比奈さんを血まみれにしてくれたな!?」 「ああ、あれか。あのことで僕たちに文句言われても困るんだがな。やったのは九曜だし。」 「もっとも、その九曜さんは今ここにはいませんけどね。」 「そういう問題じゃねえだろ!?九曜とか何とか関係ねえ、連帯責任だ!」 「うるさいやつだな…第一、九曜にそうさせたのはどこのどいつだ?」 「あれって言わば正当防衛みたいなものですからね。私たちが非難される所以はどこにも ありませんよ?誰かさんが家を爆破したりしなきゃ、こんなことにはならなかったんですから。」 …確かに、もとはと言えば、偽朝比奈さんに唆された俺が藤原一味を敵だと思い込んだことが 全ての発端か…そのせいで、長門や古泉は連中に対して先制攻撃に打って出ちまいやがった…。 「ま、どうせ異世界から来た朝比奈みくるにでも騙されてたってとこなんだろ?」 「……」 言い返せない。 「あらら、図星みたいですね。せっかく藤原君があなたに『朝比奈みくるには気を付けろ。』 って忠告したのにもかかわらずね。人の話はちゃんと聞かないとダメですよ?」 「?何のことだ?」 「え?藤原君が言ったの覚えてないんですか??」 …? 「それなんだがな、橘。実はそんときの記憶、こいつから消した。」 「ええーっ!?どうしてそんなことしちゃったんですか??」 「僕や九曜が暗躍してることを知られたらいろいろと面倒だろ?そう思って 消したんだよ。それにこいつ自身、結局僕の忠告に従わなかったしな。」 「そのときは従わなくても、途中で考えが変わったりしたかもしれないじゃないですか! 藤原君のせいで…キョン君が私たちを敵だと思い込んだようなものですよ…!? 結果として、私たちは朝比奈みくるを討てなかった!どうしてくれるんですか!?」 「おいおい落ちつけよ…いずれにしろ、目の前にいるこいつの働きのおかげで 世界は救われたんだから…結果オーライ。それでいいじゃないか。」 「そういう問題じゃないでしょ!?いつまでもそんなルーズな性格だと またいつか、同じようなミスをしちゃいますよ!?」 「わかったって…わかったから。すまんかった橘…」 「わかればいいんです。」 さっきからこの二人は… 一体何の話をしてるんだ??…俺にはわからない。 ただ、【怒る橘】と【それに頭を下げる藤原】との対比に驚愕したのは言うまでもない。 「そういうわけで、それじゃキョン君も仕方がないですよね。 今回は双方に落ち度があったと…そういうことにしておきます。」 どうやら、俺にも落ち度とやらがあったらしい。まあ…今となってはどうでもいいが。 「何はともあれ、昨日今日は本当にお疲れ様でした!キョン君。ほら、藤原君も言う!」 「…何で僕がこいつなんかに?今お前が言ったんだから、別にいいだろう。」 「よくないです!こんなときに意地張っちゃってどうするんですか!?だから藤原君は…」 「わかったわかった…言えばいいんだろ?…お疲れ様でした。」 「あ、ああ…。」 「さて、じゃあ私たちは買い物に行くとしましょうか。じゃあねキョン君!」 颯爽とコンビニの中へと入って行く橘と藤原。…まったく、嵐のような二人だったな。 何がどうだったのか…結局よくわからなかった。 …って、これはまずいんじゃないのか??もし…中で立ち読みしてる古泉と朝比奈さんが あの二人と鉢合わせでもしてしまえば…!!俺と違って事情を知らないだけに… 非常にややこしいことになるのは間違いない!!最悪の場合…喧嘩沙汰になるぞ!? …… 用事を済ませたのか、中から出てくる二人。 「それにしても、最近の藤原君はコンビニ食ばかりですよね…?気持ちはわかりますよ。作る手間が省ける分、 楽ですもんね。でも、それも程々にしておいたほうがいいかなーと。栄養が偏りますし。」 「何でお前なんかに心配されなきゃならない!?関係ないだろ!?」 「関係なくないです。また何か共同作業があったとき、体調でも崩されたらたまったもんじゃありませんから。」 「そういうお前はいいのか??自分だってコンビニで弁当買ってたじゃないか…。」 「私は た ま に だからいいんです。それに、私がコンビニを利用するときって たいていは雑誌やライブチケットの予約ですからね。今だってほら…予約してきました!」 「…EXILEのライブ…か。この時代の人間じゃない自分にはよくわからん…。」 「今すっごく人気のグループなんですよ!?一回藤原君も未来へ帰る前に聴いておくべきです。」 「はぁ…そうかよ。」 …… 「あれ?キョン君まだそこにいたんですか?」 「…何やってんだあんた?僕たちが中へ入ってから出て来るまでの間、 おにぎりの一つさえも食ってなかったのか?…呆れるな。」 「そうですね…肉まん冷えますよ?じゃあ、私たちはこれで。またねキョン君!」 「ふん、意味不明なやつ。よくあんたのような人間が世界を救えたもんだ。」 「何言ってんですか!?さっさと行きますよ??」 そう言い残し、去って行く藤原と橘。 …… 突っ込みたいことは山ほどあるんだが…今は自重するしかない。とりあえず外から中を眺めていたが… 結局、両者が互いに鉢合わせすることはなかった。運が良かったんだろうな…要因は2つ。 1つは古泉・朝比奈さんが立ち読みに夢中になっていた…ということ。 もう1つは藤原・橘の二人が雑誌コーナーに立ち寄らなかった…ということ。 この2つが掛け合わさり、見事に衝突は回避。めでたしめでたし…というわけだ。 …… いや、全然めでたしじゃない…無駄に時間をロスした分、一刻も早く食事に手をつけねばならない… 「食べ終わったようですね。」 「ああ…おかげ様で、ゆっくりと食べることができたぜ。」 「それはよかったです!私も私で、ゆっくりと雑誌を眺めることができました!」 「何を読んでたんですか?」 「ファッション誌をね。特に、可愛い衣服やアクセサリーなんかは… 見ててほしくなってきちゃいました!この時代の衣料品もなかなか興味深かったです…!」 「気に入ってもらえて嬉しいです。勧めた甲斐があったというものですよ。」 「そういう古泉は何を読んでたんだ?」 「芸能系の雑誌をちょっと。政治の裏金や特定企業・芸能事務所間の癒着及び秘密協定等… 普段なかなかお目にかかれない記事に白熱していた…といったところでしょうか?」 …なるほど。各々の性格を考慮すれば、二人が本に夢中になっていた…というのも頷ける。 「二人とも満足そうで何よりだぜ。」 「そうですね。…では、行くとしましょうか?」 図書館へ向け、再び俺たちは歩き出した。 …… …どうする?朝比奈さんに…あのことを聞いてみるか? 事態が落ち着いた今なら…もしかしたら答えてくれるかもしれん。 「朝比奈さん…ちょっといいですか?」 「?何でしょう?」 「長門から聞いたんですが、昨日朝比奈さんは…時間移動したそうですね?未来へと。」 「!」 「もし差し支えなければそのこと…教えてくれませんか?」 「……」 彼女は答えない。…やはり、何か触れてはいけないことを…俺は聞いてしまったのだろうか? 「あなたが答えないのは禁則事項のせい…というわけではないようですね。」 「…!」 古泉の言葉に…かすかではあるが動揺する朝比奈さん。 「もし禁則事項で話せないのであれば、すぐさまあなたは【禁則事項】という名の言葉を口から 発するはずですよ。未来人からすれば、それは永久不可侵に通じる絶対のルールであるはず。 現代の我々から言わせれば、ちょうど犯罪是非の境界線認識に近いものと言ったところでしょうか。 朝比奈さんのような実直誠実なお方がそれを破るとは考えにくい…だから、尚更言えるんです。 あなたが答えないのは…単に個人的な問題によるもの、とね。」 「……」 …… 操行してる間に、俺たちは図書館へと着いた。…とりあえず、3人で空いてるソファーに座る。 …空気が重い。 あんな質問、するべきじゃなかったのかもしれない…。俺は後悔の念に打ちひしがれていた。 事態が落ち着いた今なら…世界が救われた今なら答えてくれる…!そう安易に妄信していただけに… 「…話します。」 一瞬、空気が浄化されたような気がした。二度と口を利かない、 そんな雰囲気があっただけに…。彼女のこの一言に、俺は救われた。 「確かに、私はあのとき…未来へと帰っていました。それは事実です。」 …… 「…覚えてるかしら?二日前、私たちがファミレスに集まって話したことを。」 「?…はい。」 「私…あのときは本当にびっくりしちゃいました。涼宮さんの誕生が46億年前に遡ること、これまで幾つもの 世界が存在したということ、フォトオンベルトによりこれから世界が滅ぶこと…どれも信じがたい内容ばかりで、 正直長門さんから初めて聞かされたときは耳を疑いました…。そんなときであっても、 あたふたしてる私とは対照的に、古泉君は凄く冷静で…決して取り乱したりはしませんでした。」 「…朝比奈さん、それは違います。とても内心穏やかだったとは…言えませんね。 むしろ、発狂したいくらいでした。世界は近年になって構築された…この近年説が覆された。 僕を含む機関の面々がこれまで妄信してきた価値観が…根底からひっくり返された。 長門さんの話を【事実】として受け止めるには…あまりにハードルが高すぎましたよ。その証拠に、 キョン君は知ってるはずです。僕のあのときの…ファミレスでの説明はお世辞にも良いものとはいえなかった、 ということをね。当然です、僕自身混乱していたのですから。」 「…何を言ってるんだお前は??十分上手く説明してたように…俺には思えるぞ?」 「本当にそう思っていただいているのであれば、嬉しい限りですね。ですが、よく思い出せば わかるはずですよ。僕が…事あるごとに、しょっちゅう長門さんへ助けを求めていたことがね。」 「そりゃ、全体の説明量から言わせれば、長門の方が多かったかもしれんが…。」 「おわかりですか?朝比奈さん。あのときの僕は正常とはほぼかけ離れた状況にあった…ということが。」 「…古泉君の内心がそうだったとしても、それでも古泉君は…外面をちゃんと取り繕ってたじゃないですか! キョン君が今言ってたように私からしても、とても説明に不備があったようには思えませんでした…!」 ?朝比奈さんは…さっきから一体何を言おうとしてるんだ?今話してることが… 未来へと時間移動したこととどういう関係が?…それにしてもこんな会話、俺はどこかで聞いた気が…。 …… ------------------------------------------------------------------------------ 「ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?」 …今日の朝比奈さんはどうしたんだ?何か気持ちが滅入るようなことでもあったのだろうか。 まさか、未来のほうで何かあったか?? 「そんなことないですよ朝比奈さん。あなたは十分俺たちの役に立ってます… いや、役に立つ立たないの問題じゃない。いて当然なんですよ。」 「……」 「何かあったんですか?俺でよければ話を聞きますが…。」 「…昨日の晩、私は力になれたかしら…?」 昨日の晩とは…俺たちがファミレスにいたときだ。 「世界が危機に瀕してる…そんなとんでもない状況なのに私は昨日あの席で… 長門さんや古泉君に説明を任せっぱなしで、自分自身は何一つ重要なことはできなかった…。」 ・ ・ ・ 「…朝比奈さん。」 「は、はい?」 「あなたには…長門や古泉には無い物があります。俺が二人の難解な説明を聞いて頭を悩ましているとき… 朝比奈さんが投げかけてくれた言葉の数々は、俺の疲れを随分と癒してくれましたよ。もしあなたがいなかったら… 二人の説明を本当に最後まで粘り強く聞けていたかは…、正直自信がありません。ですから、 本当に感謝してます。変に力まずにただ…自然体のままで。それで十分なんですよ。」 「キョン君…。そう言ってくれると嬉しいです…、でも私…」 …… 「いや、なんでもないです!…私を励ましてくれてありがとう。」 ------------------------------------------------------------------------------ …… おそらく彼女は昨日、ハルヒの家で俺に話したことと…全く同じことを言いたいのかもしれない。 「朝比奈さん…まだそんなこと言ってるんですか??昨日も、俺は言ったじゃないですか!? 朝比奈さんがいたからこそ、長門や古泉の説明を最後まで粘って聞くことができたって!」 「そっか…キョン君にはこのこと昨日話したもんね。二度も似たようなこと言っちゃってゴメンね? そんなつもり私もはなかったんだけど…ただ、【未来へと時間移動した】理由を言うには 今の話はとても欠かせないものだったから…。」 「…そうだったんですね。いえ、自分は全然気にしてませんよ。どうか、話を続けてください。」 「…ありがとうキョン君。」 …… 「ここまで遠回しな言い方をしてしまったけど…つまりね、私はみんなの役に立ちたかったの…! 長門さんや古泉君のような…目に見えるような働きを…、私は果たしたかった! いつも私だけ何もしないのは…もう嫌だったから…!」 「……」 「未来へ時間移動…その行動の契機となったのは、ファミレスで…長門さんが言ってましたよね? 涼宮さんが倒れた今回の騒動には…未来人が関与してるんじゃないかってことを…。」 『あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を 観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない 非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では 到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。』 『…未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。』 …確かに長門はそう言っていた。 「だから私は思ったの。もし犯人が…私と同じ未来人であるのなら、私にはその犯人の情報を つかむ義務がある…と。SOS団で唯一時間跳躍ができる人間が私なんです… もしかしたら、みんなが知りえない情報を私なら…未来で手に入れられるかもしれない! そしたら、涼宮さんの役にも立てるかもしれない!そんな強い思いが…私に生まれたの。」 …… 「だから、朝比奈さんはその情報を得るため、未来へと時間移動したんですね…?」 「…はい、その通りです。」 …… 「でも…現実は非情だった。私は…いろんな人に話を聞いた。幾多の幹部の方にも話を伺った。 それでも…私が求める情報を、誰も教えてはくれなかった。まるで…みんな私に何かを 隠してるかのように…ふふっ、こんなふうに考えちゃいけないのにね。私って…ダメだね。」 …いや、朝比奈さんの今の考えは、おそらく当たってる。 なぜなら、犯人の名前そのものが…【朝比奈みくる】その人だったからだ…。 いくら別世界の住人とはいえ、彼女が【朝比奈みくる】なる人物と全くの同じ姿・形・名前をもつ 人間であることは事実…上層部の連中からすれば、これほど躊躇してしまう存在もなかったかもしれない。 ましてや、世界の存亡にかかわる…現代で言う国家最高機密に指定されていてもおかしくない情報を 彼女に話すことなど言語道断 このような認識が幹部たちの間で成立していたとしても、何らおかしくはない。 「でも、私はあきらめなかった。何度も何度も上層部の方とコンタクトを取ろうともしたし、 電話をかけたりもした…そして、ようやく上司からある情報を聞けたの…。」 上司…大人朝比奈さんのことだ。 「その情報っていうのがね…藤原君たちに任せておけば大丈夫、というものだったの…。」 「……」 言葉に詰まる俺。 …… 結果的に、ヤツらが【朝比奈みくる】の暗殺に向けて暗躍していたのは…事実だったからだ。 「最初聞いたときは、私には何のことだか訳がわからなかった…それもそうよね?キョン君たちからすれば、 彼らは敵なんだもの…そんな彼らがいくら世界を救うとはいえ、その過程でキョン君や涼宮さんたちを助ける だなんて…私にはにわかには思えなかった。…結局、私が未来でつかめた情報はこれだけ。だから、 私にはなんとしてもこの情報の真偽を確かめる必要があった…。藤原君がこの世界に来てるということを知って、 ただちにこの時間へと遡行したわ。そして、彼に連絡をとった…」 ……ッ ようやく話が繋がった。 『…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、 これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。』 『パーソナルネームで言うところの、藤原。』 …この長門の言葉はそういうことだったのか。 「でも…彼は私の質問に対して、まともな返答はしてくれなかった… 一応何度か連絡はとってみたんだけど…結局、私は何も情報を聞きださず仕舞いに終わった…。」 …… もしかしたら、藤原のヤツは朝比奈さんの【声】を警戒したのかもしれない。 標的である【朝比奈みくる】と全くの同一の声…彼女を相手にしなかったのはこのせいか…? 「…私がね、昨日涼宮さんの家で元気がなかったのも…さっきキョン君から時間移動のことについて 聞かれた際に沈んでいたのも…そのせいなんです!だって…そうでしょう…っ? 犯人が未来と関係あるっていうのなら…きっと未来で何かしらの情報がつかめると、そう思ってたのに! 今度こそ…みんなの役に立てると思ってたのに…。結局、時間跳躍した意味もなかった。 藤原君からも何も聞き出せなかった。私には…みんなと会わせる顔がなかったの…。」 彼女が涙声になっているのは言うまでもない。もしかしたら、泣いているのかもしれない。 …… まさか、彼女にこんな事情があったなんて…思いもしなかった。 ハルヒや自分のことで精一杯だった俺には…彼女の苦しみなんて気付きようもなかった。 ------------------------------------------------------------------------------ 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は ------------------------------------------------------------------------------ 尚更、あのときの彼女の心情がわかる。幾度と奔走した挙句、成果を上げられなかった彼女は… あのとき死す覚悟だった。そこまで彼女は追い詰められていた。 そうでもしないと、自分でも納得のいかない段階まで来てたってのか…!!? …っ!! 「朝比奈さん!すみませんでした…!!」 急に立ち上がり、何事かと思えば…彼女に向け、土下座をする古泉。 もちろん、ここは図書館。館内のあらゆる一般人の視線を…ヤツは浴びることになった。 「ど、どうしたんですか古泉君!?何で…何で私に土下座なんか…!?」 「僕は…正直に、あなたに包み隠さず話さなければならないことがあります…!」 「…??」 「僕は…あなたを、一時的ながらも…疑っていたんですよ…。あなたを、犯人だと!」 「っ!」 「この局面においての未来への時間移動、我々の敵であるはずの藤原氏への電話連絡、未来技術応用による 涼宮さんの卒倒等…いくつもの状況証拠により、あなたを… 一時的にでも犯人だと、僕は疑ってしまった! 朝比奈さんに…そんな重い事情があるとも知らずに僕は…ひどいことを考えてしまった!! 最低ですよ本当に…。深く、深くお詫び申し上げます…。」 「……」 …… 「古泉君…顔を…、顔を上げてください…。」 「朝比奈さん…?」 「…確かに、それを聞いたときはショックでした。でも!それを言うなら私にも非があります…! だって…考えてもみれば、世界がどうなるかもわからないこの局面で…みんなに何の相談もせず、 勝手に時間移動をしてしまった。状況的に疑われても仕方ないことを…私はしてしまいました。 だから、責められるべきは迂闊で軽率な行動をしてしまった…私にあります。古泉君は…涼宮さんのことを、 みんなのことを一生懸命考えてた…!だから、一つでもあらゆる不安要素は潰しておきたかった! 仲間想いの優しい副団長さんだと…私はそう思いますよ…?」 「…許して…くれるんですか?」 「許すも何も…当たり前じゃないですか!私のほうこそ…ゴメンね。」 「朝比奈さん…!ありがとうございます…っ! …そうだ、朝比奈さん。」 「な、何でしょう??」 「僕はですね…その点においては、彼を…キョン君のことを尊敬しているのですよ。」 「お…俺…??」 急に自分の名前を出され、驚く俺。 「彼はですね…僕と長門さんが朝比奈さんの…、一連の状況証拠を並べている時に際してまでも 朝比奈さんの無実を訴えて止まなかった。朝比奈さんが無実だと…信じて止まなかった。それどころか、 そんな問題提起をする僕や長門さんに対して逆上しそうになったくらいでした。…それだけ彼は仲間のことを 心底信じていたというわけですね。ここまで純粋で素朴な人間は…なかなかいないでしょう。」 「キョン君が…私のためにそこまで…?!ありがとう…キョン君…。」 「ま、待ってください朝比奈さん!そんなこと言われる所以、自分にはありません… むしろ、謝りたいくらいなんですから…。もっと早く、もっと早く朝比奈さんのそういう事情に気付いていれば… 朝比奈さんがここまで精神的に追い詰められることもなかったかもしれない…。だから 謝ります、朝比奈さん。」 「……」 …… 「どうしてキョン君にしても古泉君にしても…みんなここまで謙虚なんですかね…? もうちょっと自分を持ち上げたっていいのに…。ふふっ、なんかおかしくなってきちゃいました♪」 「確かに…ちょっとおかしな状況かもしれませんね。僕も自然と笑いが…。」 「古泉よ、どうおかしいのか?お前の得意分野、解説でぜひ説明してくれ。」 「いやぁ…さすがに、こればかりは僕にも解説不能です。」 俺たちは笑いに包まれた。…さっきまでの重い雰囲気は、一体どこにいったんだろうか。 …… 良い仲間に恵まれて、本当に自分は幸せだな…。出過ぎたマネかもしれんが、 おそらく他の2人も似たようなことを考えてるのではないかと…。俺は強くそう感じていた。 いつまでも、こんな時間が続けばいいなと思った。 いや…どうも、そういう問題ではないらしい。さっきから周りの視線が…痛い。 どういうことなんだろうな?俺たちは、すっかり忘却してしまっていた…っ! 【ここは図書館だ。】 何でかい声で笑ってんだ…迷惑にも程があるだろう…? そういうわけで、俺たちは図書館を後にしたのさ。
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「バンドを結成するわよ!」 そんな声が聞こえた途端、俺は何度目か数えるのも忘れてしまうほどの偏頭痛に襲われた。 ただ今、耳の張り裂けんばかりの大声でバンド結成宣言をブチ上げてくれたのは 我らがSOS団団長涼宮ハルヒその人である。 毎度毎度のことながらハルヒがこのように突発的な思い付きを宣言する時は 決まって何かの騒動に巻き込まれることになる。 それはこのSOS団という得体の知れない団に1年半以上も身を置いてきた俺にとっては 火を見るより明らかな話なのである。 今度は一体何だって言うんだ? 「で、いきなりまたどうしたんだ?」 俺は、これまた毎度毎度になるお決まりの質問を投げかける。 するとハルヒは、満面の笑みで答える。 「文化祭のステージに立って演奏するのよ!」 俺はこれまたこの1年半で何度目になるかわからない溜息をつく。 ふと顔を上げると、すっかりお馴染になったSOS団のメンバー達が思い思いのリアクションを取っている。 朝比奈さんは、急なハルヒの宣言にオロオロしている。 何かイベントとなる度に、またけったいな衣装を着させられ、晒し者になるのを恐れているのだろうか。 俺としては、新しい衣装のバリエーションが見れるのはそれはそれで何とも魅力的な・・・と妄想は置いておこう。 長門は、じっと置物のような静けさを保ったまま、ハードカバーの分厚いSF小説に目を落としている。 その姿には正直リアクションなんてものは認められない。まあ、いつものことだがな。 古泉は、相変わらずのニヤケ顔を浮かべてやがる。 こいつも長門同様、ハルヒの突然の宣言に驚きを見せていない。 ・・・というか急に目配せをするな。俺に向かって微笑むな。気色悪い。 さて、俺も周囲の観察ばかりしていないで、いつものようにクールなツッコミ役に戻らなければならないな。 「ちょっと待て、ハルヒよ。俺達は既に自主制作映画を文化祭で上映する予定じゃないか」 そうなのである。我々SOS団は今年の文化祭に出展するための映画を現在鋭意制作中なのである。 一応去年の映画の続編という位置づけらしい。 が、相変わらず超監督様の考える脚本・演出方針は俺には到底理解不能であり、 相も変わらず頑張りすぎのバニーガール服やウェイトレス服を着させられ、 未来から遣ってきた戦うウェイトレスという普通の感受性を持っているならば 間違いなく失笑モノの役を演じさせられている朝比奈さんのオドオドした姿には同情の念を禁じえない。 まあ、そのキワドイウェイトレス服と舌足らずな台詞回しに俺が微妙に萌えているのはナイショだ・・・。 そして、その映画の撮影自体が超監督の気分と創作意欲の赴くままに行われているため、いつクランクアップするのかは全くの未定である。 仮に無事クランクアップに辿り着いたとしても、その後俺には地獄の編集作業が待ち受けていることは確実であろう。 ちなみに文化祭まではあと1ヵ月と少しというところだ。 「文化祭まではあと1ヵ月しかないぞ。今撮ってる映画だっていつ出来上がるかわからないんだ。 普通に考えて、バンドなどやっている時間なんか無いだろう」 俺は極めて常識的な反論を述べた。しかし、そんな俺の常識論がハルヒに通用しないことはわかりきっていた。 「何よ、1ヵ月もあれば十分じゃない。これしきのことで音を上げるようじゃ団員として失格よ」 ハルヒがそう言ってくるのは予想していた・・・。 「それにバンドをやるったって、俺は楽器なんか何も出来んぞ。」 うむ。これまた常識的な反論だ。しかしハルヒは全く意に介さない。 だったら今から練習すればいいじゃない。1ヵ月あれば楽器のひとつやふたつ余裕でしょ。」 そりゃあお前や長門にとっては余裕だろうが・・・。 「とにかく!コレはもう決定事項なの! 私達SOS団が文化祭のステージをジャックして、 熱い演奏を繰り広げてオーディエンスの魂を揺さぶるのよ!」 この急展開に俺の魂はもう色々な意味で揺さぶられっ放しなのだが・・・。 「そうすれば、私達の宣伝にもなるし――」 既に宣伝の必要もないほどSOS団は有名だ。得体の知れない怪しい集団としてだがな。 「この学校のどこかに潜んでいる宇宙人、未来人、超能力者にもいいアピールになるわ!」 その必要はない。何故ならそれらは既に皆この場所に集まっている。 「さあ、そうと決まったらまずはパート決めね!」 そんな心の中でのツッコミもハルヒに聞こえているはずはなく、 どうやらSOS団でのバンド結成と文化祭出演がいつの間にか正式に決定してしまったようだ・・・。 さて、バンドのパート決めである。 ハルヒがボーカル&リズムギター、長門がリードギターというのは最初から決まっていたらしい。 2人とも去年の文化祭での経験者だしな。 思い起こせばハルヒ&長門が急遽乱入したあのENOZのライブは確かに凄かった。 ここだけの話、普段音楽なんて殆ど聴かない俺でも少し感動してしまったしな。 あのライブの反響はかなり凄まじかったようで、その後、高い評判と共にENOZのデモテープは校内で瞬く間に大量に出回り、 ENOZの面々は北高生なら知らないものはいない程有名人となった。 メンバーが皆3年生のため、今はもう卒業してメンバーは皆バラバラの進路に進んだそうだが、現在でも活動を続けているらしく、 地元のライブハウスでは定期的にライブを行っているらしい。自主制作でCDを出すなんて噂も耳にした位だ。 もしかたらいつの日か彼女達がメジャーデビューするなんてこともあり得るかもな。 それにあの時、まさに熱唱と言っていいパフォーマンスを見せたハルヒは少し輝いて見えた。ほんの少しだけだぞ? そういえばあのライブの後、ハルヒは「今度はSOS団で出よう」的なことを言っていた気がする。 あの時はただの思い付きからの発言でその内ハルヒ自身も忘れているだろうと思っていたが・・・甘かったか。 それで肝心の残りのパート決めの方であるが―― 朝比奈さんがキーボード兼コスプレでの舞台の飾り、古泉がベース、俺がドラムということになった。 ドラム!?俺に出来るのか!?まあ、キーボードでもベースでも同じことなのだが・・・。 因みに俺のこのパート配置の理由はハルヒ曰く、 「なるべくフロントには見てくれがイイ人材が立ったほうがウケがいいでしょ。 だからキョンは後ろでドラム叩いてなさい。」 だとさ。いじけるぞ、チクショウ・・・。 そして、そんな勝手極まりないパート配置に未経験者達の反応はというと―― 「ふええ~。楽器なんか出来ないですよ~。」 と、嘆く朝比奈さん。確かに彼女にはコスプレはともかくキーボードは荷が重そうだ。 女の子なら誰でもピアノとかそれなりに弾けそうなイメージがあるがこの人の場合はカスタネットやタンバリンの方が似合いそうだもんなあ・・・。 「ふむ。さすが涼宮さん、すばらしいパート配置ですね。」 とは偉大なるイエスマン古泉の弁。というかお前、ベースなんか出来るのか? 「未経験ですね。でも男は度胸、何でも試してみるものですよ。きっといい気持ちですよ。」 非常に前向きな姿勢は素晴らしいが、今の台詞に鳥肌が立ったのは俺だけか!? さて、パートが決まってからは、まさに急展開であった。 楽器と練習場所が必要ということになると、ハルヒは朝比奈さんを連れ、軽音楽部の部室に向かった。 数分後、満足げな笑みを浮かべたハルヒと目に涙を溜めた朝比奈さんが戻ってきた。 ご機嫌なハルヒは開口一番―― 「楽器と練習場所は確保できたわよ。親切な軽音楽部の部員さんが私達に貸してくれるわ。 ああ、楽器はもらっちゃってもいいみたいだけどね。」 と、のたまった。 この際、ハルヒが軽音楽部の部室で何をやらかし、朝比奈さんがどんな被害を受けたのかは聞かないでおこう・・・。 そして肝心の演奏曲についてハルヒは―― 「去年ENOZでやったGod Knows...とLost MyMusicはセットに入れましょ。 あとオリジナルも必要だろうから私が何曲か適当に作っておくわ。」 と、のたまった。コイツは作曲まで出来るのかよ。 ホント勉強といいスポーツといい才能には困らない奴だよな。少しぐらい俺に分けてくれたってバチは当たらんぞ。 バンド名はこれまたハルヒの案により『SOSバンド』に決まった・・・。そこ、笑っていいぞ。 もう少しマシなネーミングがあってもよかったとは思うが、ハルヒ的にはあくまでも 『S(世界を)O(大いに盛り上げるための)S(涼宮ハルヒの)ロックバンド』でなければならなかったらしい・・・。 こうして我らがSOSバンドは、本格的に文化祭に向けての練習を開始したのである。 さて、とある日の放課後、SOS団の面々はとある空き教室に集まっている。 この教室はどうやらハルヒが練習場所として元々の所有者である軽音楽部から強奪してきたものらしい。 楽器も全て用意してある。勿論これらも全て軽音楽部の部員から強奪したものであろう。 全く、コンピ研からPCを強奪したときから何も成長しちゃいないな・・・。 「さあて、こうして楽器も練習場所も揃ったことだし、早速練習をはじめましょ!」 ハルヒが満面の笑顔で言い放つ。 「ちょっと待て。練習を始めるのはいいが俺や朝比奈さんや古泉は全くの楽器未経験者だ。 いきなり曲を演奏できるわけはないだろう。」 今日の練習に際し、俺達はハルヒから曲の詳細も何も聞かされていないし、楽譜も受け取っていない。 まあ、楽譜があったところで音楽の成績が良くても3である俺には理解不能であろうが。 「そんなのは後でいいのよ。今日はパフォーマンスの練習よ。」 パフォーマンス?俺達はバンドじゃないのか?それともライブはライブでもお笑いライブに出場するつもりなのか? 「いい?ライブにおいて重要なのは演奏の質も勿論だけど、観客の視覚に訴えるパフォーマンスやアクションなのよ。 いくら演奏が上手くても、ボーっと立ちっぱなし、下向きっぱなしじゃ面白くないでしょ?」 まあ確かにな。しかしだからといってパフォーマンスか。 「そこで今日は演奏中のパフォーマンスの練習よ。まずは有希!」 相変わらず無言で突っ立っている長門。肩からは大層重そうなギターをぶら下げている。 なんでもギブソンという有名なメーカーのギターでかなり高価なものらしい。生憎俺には価値はわからないが。 そしてなぜか長門は、映画の衣装であるあの黒ずくめの魔法使いの格好である。確かに去年のライブはこの格好だったが・・・。 小さな身体に不似合いな大きなギターを肩からぶら下げ、黒ずくめで佇む長門の図は何だかシュールだ。 「そうね、有希は黒魔術にご執心の不気味なギタリストという設定でいってもらうわ。 演奏中は黙々とギターを弾いているけどギターソロになるやいなや、歯で弾き出すのよ! そして、最後にはギターに火をつけ、アンプに叩きつけて破壊、アンプも爆破させる! ってのはどうかしら?」 ちょっと待て。黒魔術にご執心まではいいとして、何だ歯弾きってのは。虫歯になるぞ。 それに爆破なんて起こしたらステージどころじゃないぞ。文化祭も中止だ。 しかしそんなハルヒの無理な要求にも長門は眉ひとつ動かすことなく首肯した。 といっても俺にしかわからないような首を2ミリほど動かしただけのものであるが。 「次はみくるちゃんね。そうね、みくるちゃんにはまずバニーの衣装でステージに立ってもらうわ。 可憐な萌え萌えキャラクターながら、凄まじい演奏をテクニックを持つっていう設定よ。 その反面、キーボードを逆さから弾いて最後にはナイフを鍵盤に突き刺すという狂気の演奏をしてもらうわ!」 ずいぶん物騒だなオイ。というかあの天使のようなお方にナイフなんか扱えるのだろうか・・・。 ツッコむところはそこではないだろうとは言わないでくれ。俺も現実を見つめるので精一杯なんだ・・・。 朝比奈さんは相変わらずオロオロとした様子で「ふ、ふぇ~、そんなコワイことできませ~ん・・・」 と、おっしゃている。しかし朝比奈さん、バニーの衣装を着てステージに立つのはアナタ的には構わないのでしょうか・・・? 「古泉君はベースよね。それならライブ中ずっと全裸で演奏する変態ベーシストって設定はどうかしら。 もしどうしても恥ずかしいなら靴下ぐらいなら着けてもいいわよ」 それはもはや警察沙汰だ。というか靴下を着けるって何だよ。履くんじゃないのか。 それに着けるなら着けるで一体どこに? 古泉も古泉だ、「いいですねぇ」なんて普通に受け入れてるんじゃねえ。 次はドラムの俺の番だ。どんなムチャなことを言われるかとドキドキしていると―― 「キョンはドラムでしょ。だったら、ドラムセットごとグルグル空中で回転するぐらいのことは必要ね」 と、当たり前のように言い放ってくれた。なんじゃそれは、サーカスの見世物か俺は。それ以前に物理的に不可能だろ・・・。 「で、お前は何もやらんのか?そのパフォーマンスとやらは」 呆れ果てた俺はハルヒに疑問を投げかけた。するとハルヒはフンと鼻を鳴らし、不敵な笑みを浮かべ 「私はボーカルだからね。フロントマンがそんな小賢しいことしてもしょうがないわ。」 と、当たり前のようにのたまってくれた。じゃあそんな小賢しいことをさせられる俺達は何なんだ。 まあ、こんなトンデモな発言の連続にさしもの俺もこれ以上反論する気力を失ってしまったのだ。 もうなるようになれ・・・。 さて、肝心の演奏の方であるが、流石というべきかハルヒと長門は上手いのだコレが。 長門の指は目にも留まらぬ速さで動きまくり、素人の俺が聴いても凄いとわかるようなフレーズを次々に弾きこなす。 もはやマーク・ノップラーやブライアン・メイどころじゃない。 メロディアスなソロ、攻撃的なリフ回し、どれをとっても非の打ち所がない。 きっとコイツはどんなにハルヒに高度な演奏の要求をされても2秒後には完璧に実践してみせてしまうだろう。 そしてハルヒである。コイツはやはり歌が上手い。 相変わらずの月まで届きそうなほどの澄み切った声である。音程もリズム感もばっちりで俺も思わず聴き惚れてしまう。 それにギターもかなり上手くなっている。正確無比なコードカッティングを次々にキメている。 去年の文化祭の時には「殆ど担いでるだけ」なんて言ってたけど、あれから練習でもしたのだろうか。 それに比べ、肝心の俺達未経験者組はというと――ひどい有様である。 朝比奈さんは、ハルヒの歌と長門のギターにあわせ、何とかキーボードの鍵盤を適当に押さえているだけである。 「ブーカ、ブーカ」と非常にマヌケな音だ。 「ちょっと!みくるちゃん!そこのコード間違ってるわよ!」とハルヒに怒鳴られても 「コ、コードってなんですかぁ~?キーボードのコードならちゃんとコンセントに刺さってますよ~」 と、流石に俺でもわかるコードについて何ともベタな勘違いをしている。 俺のドラムも酷いものだ。ハルヒが言うにはまずリズムキープが出来ていないらしい。 何度も言うように、俺は昔から音楽の授業は苦手だったんだ。 小学校の合唱のときも適当に口パクでお茶を濁していたし、リコーダーのテストだってよく出来た試しがない。 そんな俺にドラマーとして十分なだけのリズム感を求める方が間違っているのだ。 大体、両手両足をバラバラに動かすのなんて無理だ。全部一緒になっちまう。 辛うじて古泉のベースは何とか形になっているもの、俺と朝比奈さんの奏でる不協和音でバンド全体のアンサンブルは滅茶苦茶だ。 ハルヒの機嫌も目に見えて悪くなってきている。 「ああ、もう!2人とも酷すぎるわ!特にキョン!あんた真面目にやってるの?」 勿論真面目にやっているとも。両手両足が一緒に動いてしまうのは仕様なのだ。如何ともし難い。 「こうなったらいっそアバンギャルドなノイズ音楽というコンセプトに変更したらどうだ?」 「だから、アホなこと言ってないで真面目にやりなさい!!」 おお怖い、怖い。もう少しで鉄拳が飛んできそうな勢いである。 ともあれ、前途多難なSOSバンドの滑り出しに俺も正直不安を隠しきれない。 本当に文化祭に間に合うのだろうか? そこからの数日は壮絶を極める多忙な毎日であった。なんせバンド練習と映画撮影の掛け持ちだ。 平日は授業終了後すぐに映画の野外ロケに出かけるかバンド練習、そして土日は丸ごと野外ロケに費やされている。 もはや家にいる時間より、SOS団の活動に費やされる時間の方が長いくらいだ。 そんなある日、バンド練習のため、軽音楽部から強奪した空き教室にSOS団の面々は集まることになっていた。 するとそこで俺は驚くべき光景を目の当たりにすることになる。 あれから、俺のドラムの腕は全くと言っていいほど上がっていなかった。そりゃあ1日や2日でいきなり上手くなるわけはないのだが。 ああ、今日もまたハルヒにヘタクソと怒鳴られるな、と思いながら俺は教室のドアを開けた。 するとそこには古泉がいた・・・。いや、古泉がいるのは別にいいのだが。問題は古泉がしていることだ。 俺より先に教室に来て自主練習に励んでいたと思われる古泉の演奏は凄いことになっていた。 「バチン、バチン」と鋭い音をはじき出すベース。その音を紡ぎ出している古泉の指は目にも留まらぬ速さで動いている。 正直言ってムチャクチャ上手い。最初からコイツはそれなりに形になってはいたが、いつの間にこんなに上手くなったんだ? 呆けている俺に気付いたのか、古泉はアンプのスイッチを切り、俺に視線を向けるとニコリと気味の悪い笑みを浮かべた。 「おや、いらしていたのですか?ああ、今の演奏はですね、スラップと言って親指で弦を弾くようにして演奏する ベースギターの奏法の1つでして・・・。」 俺は古泉の薀蓄を無視して言葉を投げる。 「そんなことはどうでもいい。お前いつの間にそんなに上手くなったんだ?楽器なんか未経験って言ってたよな?」 古泉はニヒルな笑みを崩さず、 「それには深いワケがあるようでして・・・。」 と、なんとも歯切れの悪い反応を寄越してくる。 そして驚きはそれだけではなかった。そのあとすぐにやってきた朝比奈さんのキーボード演奏である。 もうお分かりかもしれないが、朝比奈さんの演奏も凄いことになっていた。 ついこの間までは、指一本で鍵盤を押さえるというどこかのイギリスのニューウェーブバンドの女性メンバーのような 素人丸出しの演奏しか出来なかった朝比奈さんが今では10本の指を駆使し、流麗なフレーズを弾きこなしている。 俺は古泉にしたのと同様の質問を朝比奈さんに投げかけた。しかし彼女も、 「それがよくわからないんです・・・。」 という曖昧なお答えを俺に寄越したのみであった。 その後、その日はクラスの掃除当番で遅れていたハルヒと長門がやってきて全員での練習が行われた。 ベースとキーボードの目を見張るような上達のおかげか、バンド全体のアンサンブルもかなりマシな ものになってきている。俺のドラムは相変わらずヒドイが。 「うん、今日の演奏はなかなか良かったわね!みくるちゃんも古泉君もその調子よ! 映画の撮影も順調だし、我がSOS団が文化祭を牛耳る日も遠くはないわね。」 やっとまとまってきた演奏にハルヒも上機嫌である。 「それじゃあ明日もまた放課後はこの教室に集まって練習よ。私も新しいオリジナル曲を作らなくちゃいけないし 今日はそろそろ帰るわ。それじゃあ解散!」 そう言い残すとハルヒは颯爽と教室を出て行った。 「さて、今度こそ詳しく事情を話してもらおうか」 俺は古泉に詰め寄った。 「お前と朝比奈さんは全くの初心者だったはずだ。いつの間にこんな上手くなったんだ?」 古泉は少し真剣な顔になり、抑えた口調で 「別に特別な練習をした訳ではありません。 あえて言うならば今日この教室に来てベースギターを手に取った時から上達したとでも言いましょうか・・・。」 と答えた。 「それじゃあ何か?今日いきなり上手くなったとでも言うのか?」 「そうですね。まさにそういうことになるかと」 訳がわからん・・・。俺は質問の対象を変える。 「朝比奈さんも同じですか?」 朝比奈さんは肩をすくめ、答える。 「そうです・・・。私も今日この教室に来たときから・・・。 何て言うのかな・・・キーボードを目の前にしたら自然に演奏の仕方がわかったっていうか・・・ 自然と指が動いたというか・・・そんな感じでした」 ますます訳がわからん。それともアレか? 長門のようにいわゆる未来人的だったり超能力者的な力でも使って弾き方を一瞬で覚えたのか? 「そんな力私にはありません・・・」 「同じく僕もですね。しかし、このようになった原因はあなたなら判るのではないですか?」 こうなった原因?俺に判るわけなんて・・・まさか・・・。 「ハルヒの仕業か?」 俺は最も考えたたくない、しかし同時に最も信憑性のある原因を思いついてしまった。 「はい。僕は今回の件は涼宮さんが原因ではないかと踏んでいます」 そうだった・・・。ハルヒの「力」のことを俺は失念していた。 去年の映画撮影の折、朝比奈さんの目から得体の知れないビームを発射させ、 猫に人語を喋らせ、土鳩を真っ白な鳩に変え、秋の川沿いの遊歩道を満開の桜で覆いつくしたのは 誰でもない、涼宮ハルヒがそうなるよう無意識に願ったからなのであった。 今回の状況もそれに似たものなのだろうか。 古泉は静かに語りだす。 「涼宮さんは、僕達の余りの稚拙な演奏に大いに不満を感じたのでしょうね。 そしてその不満以上に、何とかバンドの演奏を素晴らしいモノにしたいという思いが強かったのでしょう。 その結果、僕と朝比奈さんは一晩にしてプロ並みの腕前を持つミュージシャンに改変されてしまった・・・ ということでしょう」 「そうですね・・・。私もそうなんじゃないかって思います」 もう1人の当事者である朝比奈さんも同意した。 確かに古泉の説には一理ある。俺はこの説にさらなる確実性を求め、 最も信頼に足る答えを出してくれるだろう存在へ話を振ってみた。 「長門、お前はどう思う?」 黒魔術師の衣装のまま、それまで一言も発することのなかった長門が静かに答えた。 「涼宮ハルヒが情報の改変を行ったのは事実。 その結果として短時間で朝比奈みくると古泉一樹の演奏技術が向上した。」 参ったねこりゃ。これは本気でハルヒの仕業ということで確定の赤ランプが灯ってしまった。 しかし、ここでひとつの疑問が浮かび上がる。 そう、朝比奈さんや古泉とは対照的に俺のドラムの腕は全く向上していない。 今日も曲のテンポを乱す度何度ハルヒに睨まれたことやら、というほどだ。 ハルヒは俺達の楽器の腕に不満だったんだろ?バンド全体のレベルを上げようと思ったんだろ? そしたらなぜ俺だけヘタクソなままなんだ? その疑問は予想していましたとばかりに張り切って古泉が答える。 「それはですね、あなたが涼宮さんにとって重要な存在だからですよ」 は?重要な存在だと? 「そうです。涼宮さんはあなたのことを誰よりも信頼している。 だからこそ、どんな無理なことを自分が言い出してもあなただけは自分についてきてくれると思っている。 つまり、あなたならば自分が手を下さずとも、きっと努力の末上達して素晴らしい演奏をしてくれると思っているのです」 いくらなんでもそれは買い被りだろう。 「それでも涼宮さんにとってはそうなんです。 これからの涼宮さんの機嫌如何によっては例の閉鎖空間も発生しかねません。 今後の世界の命運は、あなたにかかっていると言っても過言ではありません。」 文化祭の出し物ごときで世界の危機かよ。情けないな、世界。 「それだけ涼宮さんは今回の文化祭のステージを楽しみにしているということでしょう。 実際、練習初日は我々の演奏の余りの酷さに、その夜小規模ながらも閉鎖空間が発生したのですよ?」 そうだったのか・・・。 「とにかくあなたが涼宮さんの期待に応えることが必須なんです」 古泉の説は正直トンデモ過ぎて俄かには信じられないものだった。 しかし長門も朝比奈さんもどうやら古泉の説に信憑性を感じているらしい・・・。 俺も随分重い責任を背負ってしまったものだ。ああ、頭が痛くなってきた・・・。 ハルヒの力によって楽器の腕がいつの間にかプロ並みになってしまった朝比奈さんと古泉のおかげで 我がSOSバンドの演奏も当初に比べればかなり聴けるものになってきた。 しかし毎日のように続く映画撮影とバンド練習。 前者では雑用係としてこき使われ、後者では一向に上達しないドラムの腕にハルヒからお怒りを受ける。 そんな日々に俺は体力的にも精神的にも限界に来ていた。正直かなりしんどい・・・。 そしてついに決定的な事件が起きてしまった。 文化祭本番もあと2週間程に迫ったある日、SOS団の面々は軽音楽部から強奪した空き教室で バンド練習に励んでいた。今演奏している曲はLost My Music―― ハルヒが去年の文化祭で熱唱した曲のうちの1つである。 あまりにも壮絶な4人の演奏に俺も何とかついていっている。 一応俺だって教則本を読んでみたりとドラムの腕を向上させようと努力をしている。 しかし、やはり限界がある。今だって段々と他の楽器と合わなくなってきている。 まだ両手両足も一緒に動いてしまうし・・・。 もしSOSバンドがメジャーデビューするとしたら俺はアルバム一枚で解雇だろうな。 独裁的なボーカリストとギタリストの兄弟に4文字言葉でこき下ろされて・・・。 って長門はそんなことは言わんだろうし、ハルヒと長門が兄弟なんて事実は無いが。 なんとなくふと思っただけさ。 すると、突然ハルヒがギターをかき鳴らしていた手を止め、腕を上げ、大きく振っている どうやら演奏を中止しろ、という合図らしい。 バンドの音がピタッと鳴り止むとハルヒは俺の方に振り向いた。おお、怒ってる怒ってる。 「ちょっと!キョン!また遅れてるじゃない!」 そう怒鳴るな。唾が顔にかかるだろ。 「そんなのどうでもいいわよ!全く、コレで今日あんたのせいでやり直しは何度目だと思ってるの!?」 俺だって努力してるんだがな。 「結果の伴わない努力に意味は無いわ! 有希やみくるちゃんや古泉君はあんなにいい演奏をしてくれるのに!」 今日のお前はいつに無く攻撃的だな。一体どうしたんだ? 「全く!キョンにドラムを任せたのは失敗だったかしら!」 いつもだったらコレぐらいのハルヒの暴言は心の中でツッコミを入れるだけで流すことが出来ただろう。 しかし、何度も言うが今の俺は体力的にも精神的にもヘトヘトだ。 そんな状況で俺も少し気が立っていたのかもしれない。 『全く!キョンにドラムを任せたのは失敗だったかしら!』 この言葉を聞いた途端、急に視界が紅く染まったそうな錯覚に陥り、溜まりに溜まった鬱憤が爆発してしまった。 「じゃあどうしろっていうんだよ!!俺はドラムなんかやったことはないんだ!! いきなり一丁前の演奏をしろだなんて無理があるんだよ!!」 俺の怒鳴り声に場は静まり返る。 古泉と朝比奈さんは呆気に取られた表情だ。長門の無表情さもいつもより機械的になっているようにさえ感じる。 「大体な、俺は普通の人間なんだよ!! お前や長門や朝比奈さんや古泉とも違う一般人なんだよ!!才能に恵まれている奴等とは違うんだ!! そんな俺に1ヶ月でドラムをマスターするなんて無理に決まってるだろうが!! お前の我侭には付き合いきれん!不満だって言うなら解雇にでも何でもしやがれ!!」 朝比奈さんは「けんかはだめなのです~・・・」と震えながら小声でつぶやいている。 古泉は今にもハルヒに殴りかかってしまいそうな俺をいつでも止められるよう、身構えている。 長門は相変わらず静観してことの成り行きをよりいっそう機械的な目で見守っている。 そんな状況が視界に入っていながらも俺の怒りはまだ収まらない。 沸騰したマグマが煮えくり返っているかのように身体の奥が熱い。 そして俺が続けざまに次の怒りの言葉を吐き捨てようとした時・・・ ズンガラガシャーン!! 思わず目を閉じてしまうほどけたたましい音が俺の耳に入った。 目を開けるとそこは天井だ・・・って天井? どうやら俺は仰向けにひっくり返っているらしい。 視点を戻すと、そこには俺の前に仁王立ちしているハルヒ、そしてその後ろにはグチャグチャに崩れたドラムセット。 そしてヒリヒリと痛い俺の顔面。鼻血も出ているかもしれない。 ここまでの状況から推理するにどうやら俺はハルヒにドロップキックをお見舞いされたらしい。 ドラムセット越しにか。どうやらさっきの音はハルヒがドラムセットに突っ込んだ音だったようだ。 ってハルヒよ、痛くないのか・・・? 何だか急に冷静になってしまった俺と対照的に、尻餅をついたまま見上げるハルヒはワナワナと震えている。そして・・・ 「このバカキョン!!!!」 耳をつんざくような怒鳴り声。俺はもう一撃ドロップキックを食らうこと覚悟した――が ハルヒはそのまま背を向けるとスタスタと歩いていき、乱暴にドアを開閉する音のみを残し、教室から出て行ってしまった。 シーンと静まり返る教室。 どうやら事態は最悪の展開を迎えてしまったようだと、俺は急激にクールダウンしていく脳ミソで考えていた。 「やってしまいましたね」 その静寂を破ったのは古泉だった。 「これでは去年の映画の時と全く同じ展開ですよ。あなたはもっと冷静な人だと思っていましたが。 おっと、この台詞も2度目ですね」 ああ、そういえば去年も同じようなことがあったな。 「状況もあの時とまさしく一緒です。閉鎖空間を生みかねない行動は慎んでほしかったのですが・・・」 五月蝿い。俺だって我慢の限界だったんだ。 「それでもです。前にも申したようにあなたは涼宮さんにこの上なく信頼されているんです。 その信頼を裏切るような真似をしてもらっては困るのですよ」 ドロップキックが信頼の現われってことか? 「まあ確かにあなたの気持ちもわかります。今日の涼宮さんの怒り具合は少々異常でしたし・・・。 とりあえず現段階では閉鎖空間の発生は確認されてないようですが・・・安穏とはしていられません。 去年と同様になるべく早いうちに仲直りしてください」 俺の意志は無関係なのか?お前はハルヒが良ければ俺のことなどどうでもいいって言うのか? せっかく収まりかけた怒りが古泉の発言のせいで再燃してしまった。 俺は古泉にまたもや感情的な言葉を吐き捨てる。 「とにかく無理なものは無理だ。俺は解雇されたってことでいいだろう。 ハルヒのドロップキックもそれを肯定したってことで俺は理解した。 アイツの我侭に付き合うのも限界だ。後は勝手にやってくれ。 ドラマーも軽音楽部の部員から適当に代役を立てればいいだろう。 お前はせいぜい灰色空間で巨人相手にハルヒのご機嫌取りでもしてろ」 再燃した怒りは止まらない。 「そういう訳だ、俺は抜けさせてもら・・・」 パシンッ!!! 乾いた音が静まり返った教室に響く。 その音が朝比奈さんが俺の頬を叩いた音だと気付くまで数秒かかった。 その細腕で平手打ちを食らったところでさっきのドロップキックに比べれば蚊が止まったくらいの痛みしか感じないはずである。 そのはずなのに、何故だろう、叩かれた頬がどんな屈強なレスラーの平手打ちを食らうよりもヒリヒリと痛いように感じるのは・・・。 見れば朝比奈さんは目に涙を溜めている。 「そんな言い方はあんまりです!!涼宮さん、泣いてましたよ!?」 そうなのか・・・気がつかなかった。 「涼宮さんは決してキョン君に悪気があった訳じゃありません!私にはわかります! 涼宮さんは本当にキョン君のことを信頼しているんです!絶対です! 確かにちょっと言い方は酷かったかもしれないけど・・・。 それでもキョン君だけは涼宮さんの気持ちをわかってあげなきゃいけないんです!」 朝比奈さんがここまでストレートに己の感情を吐露するのは初めて見る。 その驚きに俺の怒りは再度クールダウンしかけてきている。我ながら単純な精神構造をしていると思う。 「キョン君はそんな投げやりなことは言いません!言わないんです!」 そう言い終えると、朝比奈さんも駆け足で教室を出て行ってしまった。 俺と古泉と長門。3人だけになった教室は朝比奈さんが出て行ってしまったことでまた静寂さを取り戻した。 「すいません。僕も少々言い過ぎました」 その静寂を破ったのはまたしても古泉だった。幾分申し訳なそうな口調である。 「結局のところ、これはあなた自身の問題なのかもしれません。 僕がいくら口を挟んだところで肝心なのはあなた自身の意思。 今日、家に帰ったらもう一度よく考えてみるといいかもしれませんね・・・」 そんな言葉を残し、古泉も出て行ってしまった。 残されたのは俺と長門。 それまでずっと機械的な目をしてことの成り行きを見守っていた長門に 冷静になった俺は急に質問を投げかけたい気分になった。 「なあ、俺の言ったこと。お前も間違ってたと思うか?」 数秒の無言の後、長門は静かに答える。 「わからない。 でもあなたが涼宮ハルヒに信頼されていること、そして涼宮ハルヒに とって重要な人物であるということは確か」 「ということは、お前も俺がハルヒの信頼に応えるべきだと思っているということか?」 「情報統合思念体の方針からすれば、それが望ましい。 現在の涼宮ハルヒの精神状態では危険な情報爆発を生む可能性がある」 やはり、お前もそうなのか。 「ただ――」 長門は言葉を続けている。 「ただ?」 「一個体としての私は、あなたを信頼している。 あなたならこの状況を打破できると、信じている」 そう言い残すと長門も教室から出て行ってしまった。 教室に残されたのは俺1人。ドロップキックと平手打ちを食らった顔面がヒリヒリと痛む。 それ以上に胸の奥がヒリヒリと痛む、そんな錯覚にするにはリアル過ぎる感覚を俺は感じていた。 1人教室に残された俺。 朝比奈さんの、古泉の、長門の言葉が頭から離れない。 そしてハルヒ。朝比奈さんはアイツが泣いていたと言っていた。 もしそれが本当なら、俺がハルヒを泣かしたことになるのだろうか・・・。 そんな自問自答をしてみても、熱くなってみたり冷めてみたりとさっきから忙しすぎる程 グルグルと回っている俺の思考回路じゃ考えもまとまらない。 とりあえず俺も帰ろう。それで古泉の言うようにもう一度良く考えてみよう。 そう思い、俺はドアに向かってトボトボと歩き出した。 ふと視線を落とすと、床に何かが落ちている。 ほとほと疲れきっている今の俺の洞察力では本当ならそんな落し物には気付かないはずだった。 しかし何故だろう。自分でも不思議なのだがなぜかその落し物はまるで俺の視界の範囲内に 急に現れたのかのように、それでいて最初からそこにあったかのように床に転がっていた。 それは1枚のMDだった。MDにはラベルが貼られている。 『文化祭 新曲』 とシンプルに、それでいて勢いに任せて書きなぐったような字で書いてある。 そこまで確認して、俺はこのMDの落とし主が誰であるかすぐに思い当たった。 このMDはハルヒのものだ。 あいつはバンド結成&文化祭出演に際し、オリジナル曲の作成を宣言していた。 これはきっとそのオリジナル曲のデモテープか何かなのであろう。 これまた自分でも不思議なのだが、俺は無意識の内に当たり前のようにそのMDを拾い上げ、鞄の奥に滑り込ませていた。 家に帰り、トボトボと自分の部屋への階段を上がる。 途中、俺の帰ってきたことに気付いた妹に声をかけられたようだが、正直返答する気力もない。 そんな憔悴しきった俺を見かねたのか、 「キョンくんどうしたの、何だか元気がないよ~?」 妹は妹なりに心配してくれているらしい。 すまんな。俺にも色々と事情があったんだ。それでも心配してくれるのは兄としてちょっと嬉しいぞ。 俺は妹の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。 「キョンくん、くすぐったいよ~」 どこぞのマンチェスターの不良兄弟にもコレぐらいの兄弟愛を見せてほしいものだ。 部屋に入り、バネの壊れたブリキのおもちゃのごとくベッドに座り込んだ俺は鞄の中からさっきのMDを取り出す。 この中にはハルヒが作曲したオリジナル曲が入っているに違いない。 よく見ると、ラベルには『文化祭 新曲』という文字以外にも小さな字で何やら書いてある。 どうやらそれはハルヒが考えた曲のタイトルのようだった。 1.パラレルDAYS 2.冒険でしょでしょ? 3.ハレ晴レユカイ …何ともハルヒらしいぶっ飛んだタイトルばかりである。 そして俺はまたもや無意識の内に自分のポータブルプレイヤーにそのMDをセットしていた。 ――結論から言うと、ハルヒの才能には感服するしかない。 俺が聴いた3曲はどれもまだあくまでもデモテープの段階であり、 内容としてはハルヒがギターやピアノの弾き語りでメロディーを口ずさんでいるものだった。 歌詞も殆ど出来上がっていない未完成な演奏ながらも、その3曲をバンドで演奏した時のイメージもありありと浮かぶほどだ。 そんな俺の脳内イメージ基準では、どの曲もオリコン10位以内になら入ってしまいそうな程、そのクオリティは高い。 しかしハルヒはこの短期間に3曲も仕上げてしまったのだろうか?アイツの突発的な性格は俺もよくわかっているし、 バンド結成宣言をブチ上げるまでに書き溜めていた曲ということはないだろう。 この2、3週間映画の撮影とバンドの練習に追われていたのはハルヒも似たようなものだ。 (勿論、体力的・精神的な疲弊の度合いは俺の方が上ではあるが) そんな短い、しかも多忙を極めたこの期間にこれだけクオリティの高い曲を書いたハルヒ。 一体お前をそこまで突き動かしているものは何なんだ? それともお前にとって、このただの思いつきの産物としか思えないバンド活動はそこまで大切なものなのか? 俺は完全に冷静さを取り戻した思考回路をフル活用してこの青春の悶々とした悩みについて思索を巡らせている。 すると少しずつ、ハルヒに対する罪悪感が生まれてきたような気がする。あくまで少し、だがな。 「しかし全部で5曲か・・・。 いくらなんでも未だ初心者レベルの俺にはやはりちとキツイのではないか?ハルヒよ」 そんな独り言を嘆いたところで答えは返ってこない。 悶々とした夜は更けてゆく・・・。 明くる朝、そんな悶々とした気分は晴れることもなく学校へと着いた俺はクラスの教室の前で立ちすくんでいた。 俺の懸案事項はただ2つ、ハルヒは学校に来ているのか? もし来ているならばどう接したものか?ということである。 考えていても仕方ないと思い切ってドアを開けると・・・ なんのことはない。ハルヒはいつもの席に座っていた。 ちなみに予想はついているかもしれないが一応補足しておく。 俺とハルヒは2年時も同じクラスであり、そしてなぜか席の配置も1年時と全く同じなのである。 古泉が言うには 「涼宮さんがまたあなたと一緒のクラスに、そしてまたあなたの真後ろの席になることを望んだからですよ」 とのことらしい。 その割には国木田や阪中といった面々、 そしてハルヒ自身もあんなにウザがっていた谷口も同じクラスなのは一体どういう訳だか。 ハルヒは頬杖をついて窓の外を眺めている。 その行動自体はいつものことだが、やはり今日は不機嫌なオーラがどことなく出ている。 その証拠に俺が前の席に腰掛けてもハルヒは何のリアクションも示さない。 これは触らぬ神に祟りなし、だな・・・。 その後4時間目の途中まで、ハルヒは窓の外を見つめたままであったようだ。 ようだ、というのは俺は前の席なもんだから後ろの様子がよくわからないからである。 やはりハルヒはまだ怒っているのか・・・そう確信を強めた時、 バイブレータの振動が俺の携帯にメールの着信を告げた。 送信者は古泉。 「昼休みに中庭まで来ていただけませんか?」 だとさ。 昼休みである。俺は古泉の呼び出しに応じ、中庭へと歩を進めている。 ちなみにハルヒは昼休みになるや否やどこかへ行ってしまった。 しかし古泉には昨日散々叱責を受けたはずだが。まだ何か言い足りないことでもあるのだろうか。 中編へ
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放課後、俺はいつものように階段を上っていた。 いちいち説明しなくても分かると思うが、文芸部の部室へ向かうためである。 しかしそこで文芸部的な活動をする分けではない。 SOS団なる謎の団体の活動をするのである。 廊下の窓から外を眺めると部活動に励む生徒の姿や、 その他に学校に残って友達と遊んでいる者、 さっさと帰宅して個人的な趣味や塾に通う者、 そして男女のカップルのイチャつく姿が見えた。 「はぁ、俺はいったい何をやってるんだか・・・」 俺は普通の高校生の姿を眺めながら溜息をついた。 俺は別に好きでSOS団の活動をしているわけではない。 活動をサボったら我がSOS団の団長、ハルヒに怒られるのであり、 ハルヒが怒れば神人という謎の化け物が暴れだすからであり、 そのハルヒの機嫌を損ねないために俺はSOS団に参加してハルヒを喜ばせているのである。 しかもそのSOS団の活動と言えば、平日は古泉とボードゲームをし、 休みの日には街を散策して未確認生物を探し回るという、まさに時間の無駄遣いであった しかし全てが無駄と言うわけではない。 その理由はSOS団の女神であり、全校の男子生徒のマドンナである 朝比奈さんのいれたお茶を飲めることである。 そのお茶のおかげで俺の憂鬱の8割は解消されてるね。 いつものようにドアをノックすると、いつものように朝比奈さんの 「はぁ~い」 という返事が聞こえ、俺はドアを開けて部室の中に入る。 その朝比奈さんは、いつものメイド服ではなく、黒い色のくノ一(女忍者)の格好をしていた。 「あ、キョン君、いっらしゃ~い。いまお茶を入れますね」 その女忍者の格好は、スカートが膝下より長いメイド服とは異なって、 太ももがほとんど露出しており、あと少しでパンツが見えそうなくらい短かった。 実際、少し前かがみになっただけでパンツが丸見えだった。 俺はお茶をいれる朝比奈さんの姿(特にお尻)を眺めながら朝比奈さんに尋ねた。 「朝比奈さん、その衣装、またハルヒが用意したんですか?」 お盆にお茶を載せてこちらに運びながら朝比奈さんは言った。 「いえ、これは自分で用意したんです。いつも長いスカートだったでしょ? だからお店の人に短いスカートの衣装をください、って言ったらこの黒いくノ一(女忍者)の衣装をくれたの」 「へ~、朝比奈さんが自ら衣装を買いに行くなんて驚きですね。 ところで、なんでスカートの短い衣装が良かったんですか?」 朝比奈さんは顔を真っ赤にしながらこう言った。 「だってキョン君・・・短い方が嬉しいでしょ・・?」 「そりゃ、まあ、そうですけど・・・」 「あの!触りたかったら触ってください。そのためにこの衣装を着てるんです!」 俺は一瞬何が起こったのか分からなくなり、数秒間考え、結論を出した。 「では、お言葉に甘えて」 俺は朝比奈さんの後ろに立った。 そしてお尻を触った。朝比奈さんの息が荒くなっていく。 それに飽きてきたので前を触ろうとする。 しかし朝比奈さんは両手を前で組んでいる。 「すみません、両手をどかしてもらえますか?」 「あっ、はいっ、すみません・・・」 その時だった。 バタン!!!!!! 扉が急に開いた。 「こらー!なにやってるのよ!SOS団は社内恋愛禁止なんだから!」 ハルヒだった。 いきなり登場して俺と朝比奈さんを怒鳴ったかと思ったら スタスタと自分の特等席に着席してパソコンの電源をつけた。 俺はハルヒなど無視して続きをしようと思ったが、 朝比奈さんは、「今日はもうダメ・・」と言って俺から離れてしまった。 続いて古泉と長門が来て、朝比奈さんは3人分のお茶を入れることになった。 古泉の席の後ろで、朝比奈さんはお茶を入れている。 そして朝比奈さんのパンツを見ることが出来る。 さすがの古泉も後ろで何が起こっているのかは分からないのだろう。 お前の後ろではパラダイスが広がってるんだぞ、と心の中で思っている時だった。 俺は横からの視線を感じ、横を振り向く。 その視線の主はハルヒだった。俺のことをギッと睨んでいた。 なんなんだよ一体・・・ 「キョン、今日あんた居残りだから」 「はぁ、なんでだよ?」 「いいから残りなさい!」 やれやれ、理由さえ聞かせてもらえませんか。 俺は仕方なく居残りすることにした。 長門と古泉と朝比奈さんが帰り、文芸部の部室にいるのは俺とハルヒだけになった。 「なんで居残りさせたんだ?」 「あんた、ひょっとしてミクルちゃんのこと好きなの?」 「なんなんだよいきなり。好きだったとしたらなんなんだ?」 「いいから答えてよ。好きなの?嫌いなの?」 「まぁ、どっちかと言えば好きだね。優しくて思いやりがあって、お前とは大違いだ」 しまった。口が滑って変なこと言っちまった。 きっとハルヒはこの言葉でご立腹だろうと思い、俺はハルヒを見た。 しかしハルヒは怒ってなどいなかった。 俺の勘違いかもしれんが、少し泣いているような気がした。 「そう・・・あんた、あーゆーのが好きなのね」 そしてハルヒは走って帰ってしまった。 次の日、教室でハルヒは授業が終わるまで顔を伏せていた。 そして放課後、いつもどおり、俺は放課後に文芸部室へ行った。 そしてドアをノックした。 「は~い」 という返事。 ドアを開けて室内を見た俺は、ドアを閉めた。 何が起こったのか理解できなかった。 「なんで閉めるんですか~」 そして内側から扉は開けられて、俺は混乱してるまま室内に入った。 部室に居たのは朝比奈さんではなく、ハルヒだった。 しかも昨日、朝比奈さんが着ていたくノ一の格好だった。 しかし黒色ではなく、白色だった。 これでは忍者的活動が出来ないぞ。もしかして雪国での忍者か? 「ハルヒ、頭でもぶったのか?」 それとも変なモンでも食ったのだろうか。 まさかまた不思議な力によって世界が改変されたとか、そんな面倒なことが起こったのだろうか。 「違いますよ~。頭なんてぶってませぇん。 昨日キョン君はこういうのが好きだって言ってましたよね? だからやってみたんです~。どうですか?似合ってますか?」 呆然と立っているとハルヒは 「あ、座って待っててくださいねぇ、今お茶入れますから」 と言った。俺は言われたとおり座って待ってることにした。 お茶を入れるために前かがみになったハルヒは、昨日の朝比奈さん同様、パンツが見えた。 しかも「好き」という文字がプリントしてあった。 俺は呆然とその文字を眺めていると、ハルヒが急に振り返り 「あのぉ、パンツ見ましたかぁ?」と言った。 これはひょっとして、あのコンピュータ研部長のときと同様、なにか恐喝でもされるのか? 等と考え、返答に困っていると、ハルヒが 「あのぉ、触りたかったら触ってもいいですよぁ」と言った。 やれやれ、俺の我慢の限界も低いもんだな。 「では、お言葉に甘えて・・・」 ハルヒに近づき、尻の穴を指で触ってとき、ドアが開いた。 朝比奈さんだった。 「あ、涼宮さん、キョン君、まさか、、こういう関係だったんですか? それ、私がこの前買った衣装と同じのですね」 「ええ、そうよ、ミクルちゃんがあまりにも可愛いから買っちゃった。 結構動きやすいし便利よねこれ」 「あの、、それよりも何をやってたんですか?」 「お茶入れてちょーだい」 「私の質問に答えてくだ、、」 「お茶入れてちょーだい」 ハルヒはいつも通りの乱暴な性格に戻った。 なんなんだ一体・・・ やがて古泉と長門もやってきた。 「キョン!なにか面白い話題とかないの! なんかこう、とてつもなく面白い話よ!」 ねぇよ。自分で調べろよ。 というとハルヒはネット巡回を始めた。 俺はいつもどおり古泉とゲームをしていた。そこに長門が俺のそばに来て本を渡した。 「・・家に帰ったらすぐ読んで・・・」 古泉は不思議そうな目で俺を見ていたが、それを無視して俺はゲームに戻った。 そして長門が部室から出て行き、その日のSOS団の活動は終わった。 家に帰った俺は長門に言われたとおり、本を読むことにした。 正確に言えばページをめくって栞を探していた。 それはちょうど真ん中らへんのページに挟まっていた。 「晩ご飯を食べる前にすぐに私の家に来て」 俺はダッシュで長門の家に向かった。 ハルヒの頭がおかしくなった事と何か関係があるのだろうか。 長門の部屋のインターフォンを鳴らし、ドアが開いた。 そこでまた俺は頭がおかしくなりそうになった。 「あ、キョン君、おかえりなさぁ~い」 長門が忍者の格好をしていた。しかもピンク。 俺は溜息をつきながら長門の部屋に入った。 「ご飯にしますか?お風呂に入りますか?それとも、、、うふっ」 なんか長門の頭もおかしくなってしまったようだが 俺はそんなことは無視してご飯を選択した。まずは飯だ。 そこで気がついた。 なんと長門の衣装はパンツがギリギリ見えるとかそんなレベルではなく、パンツ丸見えだった。 その衣装はヘソの辺りまでしかなかった。 「あのぉ、触りますかぁ?」 またこれだ。 「いや、断る。今は触るって言う気分じゃないんだ。 匂いを嗅ぎたいんだ」 そして俺は仰向けになって寝た。 そして俺の顔の上に長門がまたがった。 俺が匂いを嗅いでいると、玄関の扉が急に開いた。 「長門さん、、なにやってるの・・・?」 朝倉だった。 「ちょ、朝倉、違うんだって!これは、その・・・」 しかし俺の言葉を無視して、朝倉は走って自分の部屋に帰ってしまった。 とりあえず飯だけ食って俺も帰ろう。 次の日の朝、下駄箱の中に手紙が入っていた。 「今日の5時ごろに教室に来てください」 なんなんだろうね、まったく。 そして放課後、いつものようにドアをノックする。 「入っていいわよ」 そこにいたのは忍者姿の朝比奈さんだった。 「キョン、お茶入れてちょーだい」 「あの、朝比奈さん、どうしたんですか?」 「さっさとお茶をいれなさい!」 どうやら今度は朝比奈さんがハルヒの性格になってしまったようだった。 「あ、やっぱお茶はいいわ。コップだけ持ってきて」 そう言われたので俺は朝比奈さんのもとへコップを持っていった。 コップを床に置くと、朝比奈さんはパンツを下ろし、オシッコをした。 「さっさと飲みなさい!」 俺は一気に飲み干した。 「カレーがあるけど食べる?」 いえ、それは遠慮しときます。 そして古泉が部室にやってくると同時に朝比奈さんはいつもどおりの正確に戻った。 夕方の5時である。 教室で待っていたのは朝倉だった。 しかも忍者の姿。そして衣装は肩らへんまでしかなかった。 パンツも胸も丸出しである。 もはや忍者かどうかも分からない。 「お前か・・・」 「そ。意外でしょ」 俺は朝倉に聞いた。 「なあ朝倉。教えてくれ。長門やハルヒや朝倉さんがおかしくなってしまったんだ。 いや、お前もおかしくなった。何故だ!」 「みんなキョン君のことが好きなのよ。だからああいう格好をしているの。 そして私もあなたのことが好き」 「で、お前はなんの用なんだ?」 「人間はさあ、よく、やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい、って言うよね。 これ、どう思う?」 と朝倉は顔を赤らめながら言った。 「言葉どおりの意味なんだろう」 「じゃあ、やろっ!」 次の瞬間、さっきまで教室だったこの空間は ベッドルームになっていた。そして朝倉は俺に迫ってきた。 俺の服は朝倉の不思議な力によって消えていき、ついには全裸になった。 ベッドに寝た朝倉にいろいろやろうとしたその時、横の壁が爆発した。 そこに立っていたのは長門だった。 「情報連結解除、開始」 「そんな・・・」 朝倉は悲しそうな声で言った。 「そんな・・・」 俺も悲しそうな声で言った。 朝倉の体は消えていってしまった。 そして部屋はベッドルームではなく、いつもの教室に戻っていた。 どうやら教室を再構築したようだった。 しかし俺の服は再構築されなかった。つまり全裸である。 そして俺は全裸で帰った。 次の日、俺はいつもどおり文芸部の部室へ行き、ドアをノックした。 「どうぞ」 という古泉の返事が聞こえ、俺はホッとした。 そしてドアを開けた瞬間、俺はドアを閉めた。 なんと古泉が全裸で立っていたのである。 俺はドアノブを掴んで、ドアが開かないようにした。 逆に古泉は内側からドアを引っ張っている。 「開けてくださいよ、ねぇ、開けてくださいよ」 ドアの引っ張り合いをしていると、後ろから谷口と国木田の声がした。 「おい、谷口!国木田!助けてくれ!俺の全財産をやるから助けてくれ!」 しかし俺は谷口と国木田の姿を見て諦めた。 なんと二人とも全裸だったのである。 俺は谷口と国木田に抑えられ、ついに部室の扉は開いてしまった。 そして中に運ばれていった。 起きなさい、起きなさいってば! ハルヒの声がする。 助けてくれハルヒ・・・ 起きなさい! 「ああ、、夢か」 どこまでが夢だったのか俺は考えてみる。 そうだ、ハルヒが忍者の衣装をしていて、そしてお茶を飲みながら 他の団員が来るのを待ってる間に眠ったんだ・・・ 外は真っ暗だった。 ハルヒは他の団員が帰った後も俺が起きるのを待ってたらしい。 「あんたが気持ちよさそうに寝てたから、起こそうと思っても起こせなかったのよ」 今は10月の下旬で、昼間は暖かいが夜になれば寒い。 時刻はもう6時半である。 既に外は真っ暗で、街灯がついている。 俺は俺が起きるのを待っていたハルヒと一緒に帰ることにした。 ハルヒは忍者の衣装のままだった。 「なぁハルヒ、寒くないのか?」 「寒いわよ。でも着替えるの面倒だったからこのままでいいわ」 「でも上着を羽織るくらいなら面倒じゃないだろ?」 「このままでいいの!」 「そうか・・・」 夜道を歩く男子高生徒と白い忍者。 明らかに不審者である。 無言のまま帰り道を歩いているとハルヒが口を開いた。 「ねぇ、キョン。あんた告白ってした事ある?」 「ないね。お前はあるのか?」 「されたことなら何度でもあるけど、自分からしたことは無いわ」 俺たち5人組は街中を散策した。 特に目的も無かったので本屋に行って立ち読みをしたり 服屋をいろいろと見て回ったりした。 今日の女子3人は忍者の格好をしていた。 ハルヒは白、朝比奈さんは黒、長門はピンクである。 まぁ、服装の趣味はひとそれぞれだし、忍者の格好をしてはいけないという法律は無い。 それはいい。忍者だろうが気にしない。 女子3人は街行く人の視線を浴びながら一日を過ごした。 ハルヒと長門は特に気にすることなく歩いていた。 朝比奈さんはつねに人目を気にしながら歩いており 解散時間になる頃には精神的疲労で倒れそうなほど疲れている感じだった。 なんだかんだで解散時間である。 「とろこで古泉、なんでお前は全裸なんだ?」 古泉は全裸だった。 古泉は全裸のまま叫びだした。 「これは人類のありのままの姿ですよ! 僕を否定するということは人類を否定することになります! ここ数千年の間で人類は服を着ました! しかし!これは進化ではありません!退化なのです! 昔は人類は猿のように体中に毛が生えてたました! しかしある時期を境に人類は毛が抜け、裸になりました! まさに進化ですよ!しかし5000年ほど前から服を着だしました! そこからが退化の始まりです!我々人類は進化しているようで退化してるのです! 今の人間に出来ることはなんでしょうか!地球を汚すことしか出来ません! 我々は母なる地球のために生きています!いや、生かされてます! しかし人類は汚してばかりだ!これは母なる地球に対しての冒涜であり、地球上の生物として退化である!」 古泉は警察に逮捕された。 ハルヒは言った。 「逃げるわよ!」 これはさすがに逃げるのが一番いい選択だな。 俺たちも古泉の仲間だと思われて逮捕されるかもしれん。 古泉のことである。拷問をされても仲間を売るようなことはしないだろう。 安心しろ古泉、出所した後は鍋パーティーでもしようぜ。 俺とハルヒと長門は全力で走った。 しかし朝比奈さんは足をガクガクと震わせ、走れそうになかった。 「朝比奈さん!」 俺が戻ろうとしたらハルヒに止められた。 「私たちまで捕まってどうするの!とにかく逃げるのよ!」 朝比奈さんはパトカーに囲まれた。 「こちら北署、こちら北署、全裸男の仲間と思われし女を包囲しました」 「ひぇ~、私はこの人とは関係ないですよ~。ただの忍者ですよ~」 手錠をかけられた古泉が暴れだした。 「僕は新人類です!旧人類に僕を拘束する権利などありません! 自ら服を着るなど猿以下の存在ですよ!その女の子も離してあげなさい!」 「ひぇ~、あなた誰ですか~?私はただの忍者です~。あなたなんか知りませよ~」 結局、古泉だけが連行された。 「古泉・・・」 俺は胸が痛くなった。 仲間を見捨てた自分に対して胸が痛くなった。 「なぁハルヒ、お前、忍者の格好してるだろ? 古泉を助けに行かないか?」 「なんでよ!無理に決まってるじゃない!」 「長門!なんとかしてくれ!」 「・・・無理」 その後、俺たちはそれぞれの家に帰った。 リビングでテレビを見ていると妹が 「キョンくーん、古泉君がテレビに出てるよ~」と叫びだした。 俺は妹の目を隠し、テレビを消した。 どうするんだよ古泉。 次の日、俺とハルヒは文芸部室で喧嘩をした。 「おいハルヒ!なんで古泉を見捨てたりしたんだ! 古泉だけならともかく、朝比奈さんまで見捨てるとは何事だ!」 「だってしょうがないじゃない!警察に勝てるわけないじゃん!」 「それとこれとは別問題だ!例え勝てなくても助けるのが仲間だろ!」 朝比奈さんは泣いていた。 「あのぉ、、2人とも喧嘩はやめてください・・・うぅ」 俺はすかさず朝比奈さんへ言った。 「朝比奈さんもなんで古泉を裏切ったんですか!」 朝比奈さんは大泣きして俺の言葉は耳に届いていないようだった。 その日、俺は留置所に行った。 古泉が牢屋に閉じ込められているはずである。 5メートルはありそうな塀を眺めていたら 中から古泉の声がした。何を言っているのかは分からない。 しかしいつもの演説的なものであることは分かった。 俺は門番の人に頼んで古泉との面会を許してもらった。 何重もの門をくぐり、薄暗い廊下を歩き、何枚もの扉を通り、面会室へたどり着いた。 透明な防弾ガラスの向こうに古泉はいた。 「古泉、、元気か?」 「会いに来てくれたのですね。とても嬉しいです。 しかし僕のことはもう忘れてください。僕は犯罪者です。 僕に関われば世間はあなたのことも犯罪者だと思うでしょう。」 「そうか、、お前がそう望むなら俺は何も言わない。お前とはもう関わらない」 「ありがとうございます。僕にとってそれが一番うれしいことです」 じゃあな、古泉。
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涼宮ハルヒの時駆 第一章
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「ねぇ、キョン。あんたポケモン持ってないの?」 近頃は最新型パソコンと睨めっこバトルをくり広げている団長様が、やおら話題をふってきた。まだまだ嵐の前のナンとやらを堪能していたい俺は、何をやらかすか分からんハルヒの目論見をできるだけけしかけないように答えた。 「あんな面倒なものは小四で卒業した」 「私、昨日ゲーム機ごと買ったんだけど……あんたもやらない?」 何故たった一言返しただけでここまで話が進むんだ?…まぁ、ゲームごときで深刻に考えるのもどうかしてるが、ハルヒはここ最近ネットばかりしているからなぁ 「昔は誰でもやったことあるわよね、どぉ?みんなで対戦とかやりたくない?」 「ふぇ~ゲームですかぁ…」 ゲームにまで手を出したら、今流行りのフリーター万歳人間になってしまうのではないか…仕方ない。ハルヒにこんな話をしても無駄だと思うが、たまには世界の平穏の為に働いてみるか 「…ハルヒぃ……こんな話を…知ってるかぁ?」 「な、何よ変なしゃべり方して」 「ポケモンシリーズの初代主人公は死んでいるらしい。」 「!!」 思った以上にリアクションがでかいな。気を悪くするなよ、お前の将来の為だ。 「し、知ってるわよ。金銀で話かけても『………』ってヤツでしょ?そんなんで死んでるって決め付けるなっ!!」 「マサラタウンの母親に聞くと、何か月も音信不通らしい。それに、ゴースト系のポケモンばかり出てくるしな」 「………。」 「これ以外にもポケモンには不気味な噂が沢山あるんだぞ?」 それでもやりたいか?…と言うのはまだ速いか。とりあえず、この意外と怖がりちゃんには精神的に死んでもらおう 「GBA版の伝説ポケモンで、レジアイス、レジスチル、レジロックっているだろ。」 「あれ、第二次世界大戦で死んだ障害者の権化らしい」 「ちょっと!!今日のあんたおかしいわよ、酷いじゃないッ!!」 「ホウエン地方って、九州がモデルだろ?」 レジアイスは長崎 レジスチルは宮崎 レジロックは大分 どれも原爆があった場所だ …朝比奈さん、泣かないで下さいよ。ハルヒの怪しい力でみんなにとばっちりがいかないように頑張ってるんだから 「ふぇ…」 ちなみに今呻きをあげたのは朝比奈さんではなく、団長様である 「奴らの祠にある文字は、病気の人用の『点字』だしな」 「…もう、止めた方がいい」 今から、森の洋館について話そうかと話を繋げようとする前に長門が教えてくれた。ハルヒが泣いてる。 「ふぇ…ふぇ…クスン」 萌えた。 「こんのバッカキョーンッ!!!買ったばかりなのにー!!もうできないじゃないのぉ……」 「ロトムってポケモンが―――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 古泉はニヤけているが、いいのか?閉鎖空間が発生しそうだか? 「おや、貴方はそんなつもりであんな話をしたのですか?」 「…スマン、まさか泣くとは思わなかった」 ハルヒは腰を抜かしたらしく、長門におぶってもらいながら坂を降る。怖がりすぎだ 「ゆきぃ…トイレ」 「ハルヒ、後ろにピカチュウが――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 失禁するなよ? ただでさえ、下校中の北高生に見られてるんだから。それにしてもお前がそんなに怖い話が苦手だなんて知らなかったよ 「今日の彼は a bully。私も苛められたい……」モミモミ 「ちょっと、有希。お尻揉まないでよーオシッコ出るぅ」 …ほら、貴方の後ろにもピカチュウが――
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γ-1 「もしもし」 山びこのように返ってきたその声は、ハルヒだった。 ハルヒが殊勝にも、「もしもし」なんていうのは珍しいな。 「あんた、風呂入ってるの?」 「ああ、そうだ。エロい想像なんかすんなよ」 「誰もそんな気色悪いことなんかしないわよ!」 「で、何の用だ?」 「あのさ……」 ハルヒは、ためらうように沈黙した。 いつも一方的に用件を言いつけるハルヒらしからぬ態度だ。 「……明日、暇?」 「ああ、特に何の予定もないが」 「じゃあ、いつものところに、9時に集合! 遅れたら罰金!」 ハルヒは、そう叫ぶと一方的に電話を切った。いつものハルヒだ。 さっきの間はいったいなんだったんだろうな? 俺はそれから2分ほど湯船につかってから、風呂を出た。 γ-2 寝巻きを着て部屋に入り、ベッドの上でシャミセンが枕にしていた携帯電話を取り上げてダイヤルする。 相手が出てくるまで、10秒ほどの時間がたった。 「古泉です。ああ、あなたですか。何の御用です?」 俺の用件ぐらい、察してると思ったんだがな。とぼけてるのか? 「今日のあいつら、ありゃ何者だ?」 「そのことなら、長門さんに訊いた方が早いでしょう。僕が話せるのは、橘京子を名乗る人物についてぐらいです」 「それでかまわん」 「彼女は、『機関』の敵対組織の幹部といったところですよ。まあ、敵対とはいっても血みどろの抗争を繰り広げているというわけでもないですが」 「なら、どんなふうに敵対してるってんだ?」 「彼女たちも僕たちも、そうは変わらないんですよ。似たような思想のもとで動いてますが、解釈が違うといいますかね。まあ、幸い、彼女はまだ話が通じる方です。組織の中では穏健派寄りのようですからね。あの朝比奈さん誘拐事件も、彼女の本意ではなかったと思いますよ」 ほう。お前が弁護に回るとはな。 「それはともかくとして、橘京子の動きは僕たちがおさえます。別口の未来人の方は、朝比奈さんに何とかしてもらいましょう」 まあな。朝比奈さん(大)だって、あのいけ好かない野郎に好き勝手させるつもりはないだろう。 「問題は、情報統合思念体製ではない人型端末です。何を考えてるのか、全く読めません。長門さんの手に余るようなことがあれば、厳しい状況ですね」 「長門だけに負担をかけるようなことはしないさ。俺たちでも何かできることはあるだろ」 「僕もできる限りのことはしますよ。でも、万能に近い宇宙存在に比べると、我々はどうしても不利です。こればかりは、いかんともしがたい」 それを覆す切り札がないわけではないがな。 だが、それは諸刃の刃だ。 「ところで、おまえのところにハルヒから連絡がなかったか?」 「いえ、何もありませんでしたが、何か?」 「いや、明日の朝9時に集合って一方的に通告されたんだが」 古泉のところに連絡がないとすれば、どうやら、明日ハルヒのもとに召喚されるのは、俺だけらしいな。 「ほう。デートのお誘いですか? これはこれは。羨ましい限りですね」 「んなわけないだろ。どうせ、俺をこき使うような企みがあるに違いないぜ」 「涼宮さんも、佐々木さんとの遭遇で、気持ちに変化が生じたのかもしれませんよ。奇妙な閉鎖空間については、先日お話ししたかと思いますが」 「あのハルヒに限って、それはありえんね」 「修羅場にならないことを祈りますよ。僕のアルバイトがさらに忙しくなるようなことは避けてほしいですね」 「勝手に言ってろ」 古泉との電話はそれで打ち切られた。 次は、長門だ。 今度は、ワンコールで出た。 「…………」 「俺だ。今日会ったあの宇宙人なんだが」 「彼女は、広域帯宇宙存在の端末機」 即答だった。 「俺たちを雪山で凍死させようとしやがった奴ってことで合ってるか?」 「そう」 「あの宇宙人とは、何らかの意思疎通はできたのか?」 「思考プロセスにアクセスできなかった。彼女の行動原理は不明」 「広域帯宇宙存在とやらの考えも分からんか」 「情報統合思念体は彼らの解析に全力を尽くしているが、成果は出ていない」 「そうか」 このあと、長門は、淡々とした口調でこう告げてきた。 「私は、情報統合思念体から、最大限の警戒態勢をとるよう命じられた」 長門の抑揚のない声が、異様なまでに重く感じられた。 γ-3 ハルヒにこき使われるに違いない明日に備えて寝ようとしたところを、妹が襲撃してきやがった。 しぶしぶ、妹の宿題につきあうこと1時間。 シャミセンと戯れ始めた妹を、シャミセンごと追い出すと、俺はようやく眠りについた。 γ-4 翌、日曜日。 妹のボディプレスで起こされた俺は、朝飯を食って、家を出た。 「遅い! 罰金!」 もはや規定事項となった団長殿の宣告も、今日ばかりは耳に入らなかった。 なぜなら、ハルヒの隣に意外な人物が立っていたからだ。 「なんで、おまえがここにいるんだ?」 ハルヒの隣には、佐々木の姿があった。 「酷いな、キョン。僕がここにいるのがそんなに不思議かい? まあ、驚くのは無理もないが、そんなに驚くことはないじゃないか。昨日、涼宮さんに電話で提案してみたのだよ。昨日会ったのも何か縁だろうから、いろいろと話し合いたいとね」 「あたしも聞きたいことがいろいろとあるし、快諾したってわけ」 ハルヒ。佐々木がお前の電話番号を知っていることを不思議に思わなかったのか? まあ、橘京子あたりが調べて佐々木に教えたんだろうけどな。 「事情は分かった。だが、なんで俺まで一緒なんだ? 話し合いたいことがあるなら、二人で話し合えばいいことだろ?」 「キョン、君は相変わらずだね。この調子じゃ、涼宮さんもだいぶ苦労してるんじゃないかな」 待て。なんでそんなセリフが出てくるんだ? この唯我独尊団長様に苦労させられてるのは、俺の方だぜ。 「フン。いつものところに行くわよ!」 なぜか不機嫌になったハルヒの号令のもと、俺たちはいつもの喫茶店に向かった。 ハルヒは、俺の財政事情には何の考慮も払わず、ガンガン注文を出しまくった。 話し合いというのは、何のことはない。 俺の中学時代と高校時代のことを互いに話すというものだった。 まずは、ハルヒが、佐々木に、高校時代の俺のことについて話した。 なんというか、話を聞いているうちに、俺は自分で自分をほめたくなってきたね。ハルヒにあれだけさんざん振り回されてきても、自我を保持している自分という存在を。 「キョン。君は、実に充実した学生生活を送っているようだね」 それが佐々木の感想だった。 なんだかんだいっても、充実していたというのは事実だろう。 だが、俺はこう答えた。 「ただ単にこき使われてるだけだ」 「くっくっ。まあ、そういうことにしておこうか」 次は、佐々木が、ハルヒに、中学時代の俺のことについて話した。 話を聞いているうちに、ハルヒの顔がどんどん不機嫌になっていく。 聞き終わったハルヒは、不機嫌な顔のままで、こう質問してきた。 「ふーん。で、二人はどういう関係だったわけ?」 「友人よ」 さらりとそういった佐々木を、ハルヒはじっとにらんでいた。 「あのなぁ、ハルヒ。確かに誤解する奴はごまんといたが、俺たちは友人だったんだ。やましいことなんて何もないぜ」 「友人以上ではなかったってこと?」 「それは違うわよ、涼宮さん。正確には、友人『以外』ではありえなかったというべきね。少なくても、キョンにとってはそうだったはず」 どこが違うんだ? 俺のその疑問には、誰も答えてはくれなかった。 「はぁ……」 ハルヒは、大げさに溜息をつきやがった。 「あんたが嘘をついてるなんて思わないわよ。でも、嘘じゃないなら、なおのこと呆れ果てるしかないわね。あんた、そのうち背中からナイフで刺されるわよ」 おいおい、物騒なこというなよ。 ナイフで刺されるのは、朝倉の件だけで充分だ。 「僕も同感だね」 佐々木まで賛同しやがった。 俺がいったい何をしたってんだ? 茶店代は当然のごとく俺の払いとなった。 総務省に俺を財政再建団体の指定するよう申請したい気分だ。俺の懐具合が再建するまでには、20年はかかるだろうね。 そのあと、三人で不思議探索となった。 傍から見れば、両手に花とでもいうべきなんだろうが、この二人じゃ、そんな風情じゃないわな。 そういえば、ハルヒとペアになるのは、あの日以来か。 結局のところ、俺はハルヒにさんざん振り回され、佐々木の小難しいセリフを聞き流しながら、一日をすごすハメになった。ついでにいうと、昼飯までおごらされた。 そして、駅前での別れ際。 俺がふと振り返ると、ハルヒと佐々木は二人でまだ何か話していた。 何を話しているかは聞こえなかった。 知りたいとも思わなかった。この時には。 γ-5 月曜日、朝。 昨日の疲れがとれず、俺は重い足取りで、あのハイキングコースを這い上がった。 学校に着いたころにはずっしりと疲れてしまい、早くも帰りたくなってきた。そんなことは、俺の後ろの席に陣取る団長様が許してくれるわけもないが。 ハルヒは、微妙にそわそわした感じだった。 また、何か企んでいるのだろうか? 俺が疲れるようなことでなければいいのだが。 疑問には思ったが、疲れた体がそれ以上考えることを拒否し、俺は午前中の授業のほとんどを睡眠という体力回復行為に費やした。 寝ている間に、何か長い夢を見たような気がしたのだが、目が覚めたときにはきれいさっぱり忘れていた。 昼休み。 なぜかハルヒが俺の前の席に陣取り、椅子をこちらに向けてドカッと座った。 俺の机の上に、弁当箱を置く。 「今日は弁当なのか?」 「そうよ。そんな気分だったから」 机の上には、俺の弁当箱とハルヒの弁当箱が並んでいる。 こうして、二人で向かい合って、弁当を食うハメとなった。 なにやら誤解を受けそうな光景だ。実際、クラスのうち何人かがこちらをちらちら見ながら、こそこそと話をしている。 ハルヒは、相変わらず健啖ぶりで、弁当を平らげていた。 「その唐揚げ、おいしそうね」 ハルヒは、そういうや否や、俺の弁当箱から、唐揚げを取り上げ、食いやがった。 「ひとのもん勝手にとるな」 「うっさいわね。しょうがないから、これをやるわよ」 ハルヒは、自分の弁当箱から玉子焼きを箸でつまむと、そのまま俺の口に突っ込んだ。 「むぐ」 クラスの女子から、キャーというささやき声が聞こえる。 とんだ羞恥プレイだな。 こりゃいったい何の罰ゲームだ? 「感想は?」 ハルヒが、挑むような目つきで訊いてきた。 「うまい」 実際、それはうまかった。 「当たり前でしょ! 団長様の手作りなんだからね!」 そういいながら、ハルヒの顔は上機嫌そのものだった。 だがな、ハルヒよ。 いくらお前が鋼の神経をしているとはいえ、こういう誤解を受けかねないような行為は避けるべきだと思うぞ。 まあ、誤解する奴はいくら説明してやったってその誤解を解くようなことはないんだけどな。 俺が中学3年生時代の経験で学んだことといえば、それぐらいのものだ。 その日の放課後、俺とハルヒはホームルームを終えた担任岡部が教卓を降りると同時に席をたち、とっとと教室を後にした。 いつものように部室に行くのかと思いきや、 「キョン、先に行っててくんない? あたしはちょっと寄るところがあるから」 ハルヒは鞄を肩掛けすると、投擲されたカーリングの石よりも滑らかな足取りで走り去った。 はて、何を企んでるんだろうね? そういや、あいつは、朝から妙にそわそわした感じだったな。 まあ、考えても仕方がないので、俺はそのまま部室に向かった。 γ-6 部室に入ると、既に長門と朝比奈さんと古泉がそろっていた。 「涼宮さんは?」 古泉がそう訊いてきたので、答えてやった。 「授業が終わったとたんにどっかにすっ飛んでいきやがったぜ」 「そうですか。何かサプライズな出来事を持ってきてくれるかもしれませんね」 「世界が終わるようなサプライズは勘弁してほしいぜ」 「まあ、それはないでしょう」 そこに、SOS団の聖天使兼妖精兼女神様である朝比奈さんがお茶を出してくれた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「ところで、昨日はどうだったんですか?」 古泉がにやけ顔で訊いてきやがった。 いつもだったら無視しているところだが、あの佐々木の周りにはSOS団と敵対している超常野郎が集まっている。一応、古泉の見解も聞いてみたかった。 俺は昨日の出来事をはしょりながら説明してやった。 「おやおや。まさに両手に花ではありませんか?」 「あの二人じゃ、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかったね」 「まったく、あなたという人は」 「それより、佐々木のやつは、あいつらに操られてるんじゃないだろうな?」 心配なのは、そこのところだ。 「それはないと思いますよ。昨日の一件は、佐々木さんの自由意思でしょう。問題は、その自由意思を利用しようとする輩が現れることです。先日もお話ししましたが、特に警戒すべきは周防九曜を名乗る個体です」 俺は、長門の方を見た。 「長門の意見はどうだ?」 長門は、分厚いハードカバーから視線を離さず、淡々と答えた。 「私も、古泉一樹の意見に同意する」 「そうか」 一応、もう一人のお方にも聞いておくか。 「朝比奈さん」 「はい?」 「二月に会った、あの未来人のことですが」 「ああ、はい。覚えてます」 「あいつらが企んでいることって何ですか? ハルヒの観察ってわけでもないらしいって感じなんですが」 「えーっと……あの人の目的は、そのぅ、あたしには教えられていません。でも、悪いことをするために来たんじゃないと思います」 うーん。自分を誘拐した犯人たちの仲間だというのに、不思議なことに、朝比奈さんはあの野郎には悪い印象は持ってないようだ。 仏様のように広い御心の持ち主なのは結構ですが、もうちょっと警戒心とかを持った方がいいと思いますよ。 それはともかく、とりあえず、警戒すべきは周防九曜を名乗る宇宙人もどきであるというのが、結論になりそうだな。 その話題は、そこで打ち切りになった。 「どうです、一勝負」 古泉が出してきたのは、囲碁かと思ったら、連珠とかいう古典ゲームらしい。 「五目並べのようなものです。覚えたら簡単ですよ」 俺は古泉の言うままに盤上に石を置きながら、実地でだいたいの遊び方を教わった。 朝比奈さんのお茶を片手に二、三試合するうち、たちまち俺は古泉に連戦連勝するようになる。 いつもどおりまったりと時間が過ぎていった。 それにしても、ハルヒは遅いな。 そう思った瞬間に、爆音とともに扉が開いた。 「ごめんごめん。待たせたわね!」 部室にいた団員全員の視線が、ハルヒに集ま……らなかった……。 団員の視線は、ハルヒの後ろに立っている人物に集中していた。 「みんな! 今日から入団した学外団員を紹介するわ! 佐々木さんよ!」 そこにいたのは、紛れもなく佐々木だった。 続き 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ)
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第一章 新しいクラスが発表されるのは始業式の後なのでもちろんここで言う教室というのは1年のときの教室である。 ハルヒはもう教室で憂鬱げなというよりは疲れているような顔を浮かべていた。 どうかしたのか?と聞いてみると「何でも無いわよ。」と言い返されたところで元担任の岡部が入ってきて体育館に強制連行された。 入学式に劣らないテンプレートな始業式は幕を閉じた。 とうとう新クラスの発表である。 この時、俺はハルヒと一緒のクラスになるのは確定だと思っていたので谷口か国木田でも何でも良いからまともな知り合いと同じクラスになれと祈っていた。 そして新クラス発表終了後俺は唖然としていた、なんとハルヒと同じクラスにならなかったのだ、ありえない。 谷口や国木田と同じクラスになれたのはよかったのだが… 俺の頭の中では?がありえないぐらいに大量発生していた。 俺は新クラスでの自己紹介を去年した自己紹介を適当に変えて終了し、何故ハルヒと同じクラスにならなかったのかホームルーム中考えていた。 結果から言うとまったく理由はわからなかった。そしてホームルームが終了しあっという間に放課後になった。 そしていつものように部活をしに…正確に言うと団活をしに文芸部室に向かった。 最初は長門しかいなかったのだが、ハルヒ、古泉、朝比奈さんと続いて部室に来て、 俺と古泉は普段道理ボードゲームをし、朝比奈さんお茶を入れてくれ、長門は読書、そして団長様は不機嫌そうにネットサーフィン。 学校は午前中までだったので大体3時ごろに解散した、そして俺は不本意ながら下校途中の古泉に声をかけた。 聞くことは決まっている。何故ハルヒと同じクラスにならなかったのか、 すると古泉は「僕にもよくわかりません。前に涼宮さんの能力が弱まっているかもしれないと言ったでしょう?それが関係しているのかもしれない。 それに気になることがあるんですが…きっと関係ないでしょう。それにあなたもわかってるでしょうが今からアルバイトに出かけなければ、では」なんて気になることを言いやがるんだ。 そして古泉と別れた後、一年生の新入部員(正確には新入団員)のことを考えていた。 今日は始業式なので1年生は来ておらず明日から授業なので明日は何が何でもハルヒを止めなければならない。 何かいい言い訳が無いか考えていた。 もともと頭が言い訳でもないのにハルヒを言いくるめる言い訳を考えなければならないとなると至難の業である、結局寝る前まで考えたが結局何も浮かんでこなかった。 そして翌日の放課後である、ハルヒは案の定SOS団を宣伝しにいこうと言い出した。 俺は苦し紛れに「やはり最強の団というのは少数精鋭のほうが良いんじゃないか?」といってみた。 そしてハルヒはなんと「そうね、わかったわ。」そう答えたのである。 なんということだろう熱でもあるのか?といいたくなるような返答をよこした。 どうせ俺の言うことになんか聞く耳持たずで「あんたは紙を印刷してきなさい」なんていわれるもんだと思っていた。 そして俺の発言により部活は普段通りに行われた。 後で聞いた話だが古泉によるとこの一件で閉鎖空間は出来なかったという やはりハルヒがおかしい。 もちろん何故ハルヒがおかしいのか俺に知る術は無くまさかハルヒ本人に聞くほど俺も無粋ではない。 とりあえず様子を見てみることにした。 そしてこの状況が一ヶ月続きゴールデンウィークがあけた後、ハルヒがSOS団結団1周年を記念しパーティーしようと言い出した、これには反対する理由が無い 場所は事情を聞いた鶴屋さんが自宅に招いてくれるという、なんと言う太っ腹な人だろうか。 SOS団ができた日は平日なので部活が終わった後鶴屋邸で予定通りパーティーが催された。 なんつう豪勢な食事だろう、正直こんな団の一周年パーティーにはもったいないレベルである。 飯を食い終わった俺たちはボードゲームやら王様ゲームやらで盛り上がっり10時ごろ解散となった。 これでハルヒも少しは元気を出してくれればいいとそんなことを考えていた。 翌日ハルヒは金棒を拾った鬼のように元気になっていた、全くこいつは心配かけやがって…やれやれ。 数日後、俺は長門に呼び出された。 いきなり電話が鳴って突然来て欲しいと、 長門は言った「すでに情報統合思念体は自立進化の糸口を見つけた、本当は私はここにいなくてもいい、だが私の意志で今を生きている。 情報統合思念体も認めてくれた。 最近、涼宮ハルヒの能力が衰えている。あなたもそう感じてるはず、 もし涼宮ハルヒの能力が完全に消えた時、敵対する情報生命体のインターフェイスが私たちをやつ当たりと口封じで始末しにくるかもしれない。 そうなれば最後、恐らく人類は滅びる、でも1つだけ方法がある。 私のインターフェイスとしての力をすべて使い敵対する情報生命体のインターフェイスの全てを消滅させる、 もしかしたら敵対する情報生命体自体にダメージを与えることもできるかもしれない、だが実行すれば地球は半壊し人類は半分滅び、私は普通の人間となる、とても危険、これは最終手段。」 勿論長門のことだからこれが冗談なわけが無い、えらくまずい、まるで変な電波を受信しているSF作家の考えそうな話だ。 長門の家から帰る途中、見知った人に会った、部室専用のエンジェル、誰であろう朝比奈さんだ。 聞くところによると朝比奈さんは俺に話があったそうで長門の家から帰る途中を狙ったらしい。 古泉といい朝比奈さんといい俺の生活は筒抜けなのか?全く なんと朝比奈さんはこういった、「キョン君も気づいてると思うんですが涼宮さんの力が弱まっているんです、 その影響で今の時代より4年前まで戻ることが出来るかもしれないんです。ですがまだ不安定で…でも近い未来それが可能になるかも…」 俺は割って入って「よかったじゃないですか!!朝比奈さん。」と言った。 「でもそれが可能になっちゃうと私は…」と朝比奈さん。 そうだった全く忘れていた、朝比奈さんというかぐや姫はもはや月に帰る前のというところまで来てしまった。 「大丈夫ですよ朝比奈さん、きっと何とかなります。」なんて意味のわからないフォローを入れてしまった。 一体全体何とかなるってのはどういう意味で何とかなるのかおれ自身に聞きたいところだ。 朝比奈さんはいつぞや聞いたのとは少し違うトーンで「キョン君…今日は話を聞いてくれてありがとう」と言って走りながら去っていった。 この分じゃ古泉からも何か重大な話を聞かされるかもしれんと思っていたがそういう気配は全く無かった。 ハルヒも元に戻り普通(と言っても宇宙人や未来人や超能力者に囲まれたとんでもなく非日常なのだが…)に戻り7月に入った。 第二章